「私も親のように…」と悲観しなくていい
「早期発症型アルツハイマー病(65歳未満での発症)」には、APP、PSEN1、PSEN2という遺伝子の変異によって引き起こされる「家族性アルツハイマー病」が含まれます。これらは非常に稀ですが、変異を持つ人は高い確率で発症します。
しかし、ここで重要なのは、遺伝子は「リスクの設定値」を変えますが、最終的な結果は生活習慣や環境との相互作用によって大きく左右されるということです。
APOE ε4を持っていても認知症を発症しない人がいる一方で、遺伝的リスクが低くても発症する人がいる。これは、遺伝だけが運命を決めるわけではないということの証拠です。
ランセット委員会の「45%は修正可能なリスク因子による」という数字は、遺伝的リスクの有無にかかわらず当てはまります。APOE ε4を持つ人であっても、生活習慣を整えることで発症リスクを下げられる可能性があるのです。
40~50代の生活が「老い方」を決める
認知症予防のタイミングについて、多くの人が誤解していることがあります。
「70代・80代になってから気をつければいい」というイメージを持っている方が少なくないのですが、科学が示す答えは少し違います。
アミロイドβが脳に蓄積し始めるのは、症状が出る20年以上前――つまり40〜50代のうちから始まっていることが多いということは、本書でお話ししました。脳血管性のダメージも、長年の高血圧や糖尿病の放置が積み重なって生じます。
ランセット委員会の分析でも、「中年期(18〜65歳)に最大の予防効果がある」ことが示されています。高血圧の治療、難聴の対処、LDLコレステロールの管理、運動習慣の形成――これらは「高齢になってから始める」より「40〜50代のうちから習慣にする」ことで、より大きな予防効果が期待できます。
「認知症の予防」は、高齢者向けの話ではありません。40代・50代のいまから脳の健康を意識することが、20〜30年後の自分の「老い方」を決める可能性があります。
特に日本においては、かかりつけ医や職場の健康診断の場で、これらのリスク因子をスクリーニングし、早期に対処する仕組みづくりが急務です。
血圧計は家庭にある、コレステロールは健康診断でわかる、難聴は耳鼻科で確認できる――こうした「手の届くところにある対策」を実践することが、将来の認知症リスクを下げることに直結します。
認知症予防は、特別なことではなく、日常的な健康管理の延長線上にあるのです。
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