魚市場とは無縁だった経歴
魚河岸の屈強な男とは真逆のビジュアルで時には200kg超えの大型マグロを小気味よくさばき、明るい笑顔で提供する姿には意外性があり、人目を引く。しかし高橋さんが注目されているのは、それだけが要因ではない。
高橋さんの職場は日本一ひいては世界トップレベルのFISH MARKET「TOYOSU」であり、さらに魚のプロたちが集う「TSUKIJI」である。本物以外、受け入れられない「魚の聖地」だ。
ましてやマグロとなれば国内、いや、これも世界最高級の地位を揺るぎないものにしている青森「大間のマグロ」を筆頭に、選りすぐりの上マグロたちがこのエリアに集まり、都内の名店などに卸されている。
そんなプロ中のプロが集まる豊洲・築地場外市場に、高橋さんはどうやって「入場」してきたのか。豊洲や築地で働く人は、身内のツテや水産関連の学校を経て市場入りするケースが多いが、高橋さんは魚市場・水産業に無縁だった。新潟県出身で、25歳までの7年間、地元で看板などのデザイナーとして活動していたのだ。
築地の業者に電話で就職希望の直談判
デザイナーの仕事に「やり切った」と区切りを付けたとき、頭に浮かんだのはそれまでとはまったく違う仕事だった。当時、スーパーの鮮魚売り場で若い女性が、切り身ではない「丸魚」を買うのを見たときのことだ。
「この人は魚をさばけるのかな。魚を下ろせる女性はカッコいい。私も下ろしてみたい。どんな魚を? ……と考えたとき、マグロだ‼と、雷に打たれたように降ってきたんです。(小さな)魚を下ろせてもマグロを下ろせる人はそういないんじゃないか、と」
そう思った高橋さんは、早速、行動に移した。親や周囲からは「本当にできるの?」と笑われることもあったというが、決意は揺るがず、東京・築地で魚を扱う店に新潟から電話で次々と直談判。しかし、「女性でしょ」と何軒も断られ、最後に受け入れてくれたのがキタニ水産だったという。
最初に「カッコいい」と思ったマグロさばきについて、高橋さんは当初「何年か修業して、包丁を触らせてもらえるチャンスがもらえたらいいな」と思っていた。ところが、「なんと入社して3週間で店長から『ちょっとやってみるか』とチャンスをいただき、私の背丈と同じぐらいの長いマグロ包丁(全長160cm)を持たせてもらったんです」と振り返る。

