「緑のアーム」に込められた安全の設計思想
ファナックは1956年から工場の自動化設備を作ってきた。1977年から産業用ロボットを量産してきた。世界の自動車工場、半導体工場、食品工場で、累計100万台超のロボットが稼働してきた。その間、ファナックが磨き上げてきたのは、「壊れない身体」「予期せぬ事態で安全側に倒れる身体」「最後の責任を引き受けられる身体」である。
2025年に発表された最新のロボット制御装置「R-50iA」は、ロボット制御装置として世界で初めてIEC62443認証(産業オートメーション制御システム用のサイバーセキュリティ国際規格、ファナック調べ)を取得した。AIが外部から侵入されることまで想定した、物理層の安全設計である。
協働ロボットの「緑色」も、単なるブランディングではない。アーム全体に衝突検知センサーを搭載し、人や障害物に触れると即座に停止する。色そのものが「人間に安全である」というシグナルとして機能している。
つまりファナックの使命は、「暴走しない身体を世界標準にするという統治」である。
世界中のAI開発者、ロボット開発者が、いくら知能を磨いても、それを動かす身体が壊れたら意味がない。暴走したときに止まらなければ意味がない。だから、フィジカルAI時代の真の「統治者」は、知能を作る者ではなく、身体の安全を握る者である。
そして、その身体の安全を、ファナックは半世紀かけて世界標準にしてきた。エヌビディアとの協業は、その「世界標準の身体」の上に、世界中の知恵を載せる仕組みを整えるものである。
日経平均6万円台は“フィジカルAI銘柄”の号砲
本稿の冒頭で触れた、2026年4月27日の日経平均史上初の6万円台到達。その背後には、ファナック自身が放った決定的な業績の手応えがある。
2026年4月24日、ファナックは2026年3月期決算を発表した。連結売上高は8578億円、経常利益は2274億円(前年比15.6%増)で、アナリスト予想を4.4%上回った。連結純利益は前期比12.9%増の1665億円。中国市場でのAI、ヒューマノイド、医療、新エネルギー車(NEV、Hybrid・EV・燃料電池車を含む新型エネルギー車両の総称)関連の設備投資急拡大が業績を牽引。2026年1~3月期のFA(ファクトリー・オートメーション、工場自動化)受注は前年同期比約4割増。同時に最大500億円規模の自社株買いを発表した。
そして3日後の4月27日、日経平均は終値6万537円。市場の評価が、ファナックの戦略を一気に織り込んだ。
日本経済新聞の記事は、こう報じている――「人工知能(AI)・半導体関連銘柄への資金流入が続くなか、前週末に好決算を発表したファナックなど『フィジカルAI』銘柄への買いが相場を押し上げた」
ここに、極めて重要な構造変化が起きている。生成AI相場では、エヌビディア、マイクロソフト、メタなど米国企業が主役だった。日本企業は脇役でしかなかった。
ところがフィジカルAI相場では、ファナックが主役の一角に立った。日本市場が、ファナックを「フィジカルAI銘柄」として認知し、評価し始めた。これは、本連載第1回で論じた構造命題――「学習し続ける現場」を持つ日本企業が、フィジカルAI時代に再び主役になり得る――その兆しが、株価という形で表に出てきた瞬間である。
2027年3月期の業績予想も強気だ。売上高9096億円(前期比+6.0%)、営業利益2122億円(同+15.5%)。同社は中長期的な成長ドライバーとして、明確に「フィジカルAI」を位置づけている。

