「ファナック×エヌビディア」という決定的協業

ここで象徴的な事実が一つある。ファナックは協働ロボット(人間と並んで作業できる、安全柵不要のロボット)だけは、「緑色」に塗装している。一般のロボットの黄色とは別の色を採用することで、人に安全だと一目で分かるようにしている。色そのものが安全のシグナルになっている、という設計思想が、すでにここに表れている。

そして、決定的なエピソードがある。ファナック本社の工場では、ロボット製造ラインがほぼ無人で稼働している。ファナックのロボットが、ファナックのロボットを組み立てている。月産1万1000台の生産能力を、ロボット自身が支えている。ファナックは世界最大のロボットメーカーであると同時に、世界最大のロボットユーザーでもあるのだ。

そのファナックに、2026年、歴史的な動きが始まった。

2025年12月1日、ファナックは「エヌビディアとの協業」を正式発表した。同月3日からの国際ロボット展(iREX2025、東京ビッグサイト)で、その実演が初公開された。

この協業の中身は、2つの決定的な変化を生む。第1の変化は、「仮想と現実の断絶」が消えた、ということだ。

エヌビディアの仮想空間ロボット学習システム「Isaac Sim(アイザック・シム)」と、ファナック独自の高精度シミュレーター「ROBOGUIDE(ロボガイド)」が連携した。

これがなぜ決定的なのか。説明したい。

「2025国際ロボット展」で展示されたファナックの産業用ロボット=2025年12月5日、東京都江東区の東京ビッグサイト
写真提供=共同通信社
「2025国際ロボット展」で展示されたファナックの産業用ロボット=2025年12月5日、東京都江東区の東京ビッグサイト

「仮想と現実のズレ」が消えた衝撃

従来、ロボットをAIに学習させる際、開発者は仮想空間でロボットの動きをシミュレーションし、それを実機に移していた。しかし、仮想空間と現実の間には常にズレが存在した。光の当たり方、摩擦、重力の微妙な違い――これらが原因で、仮想空間で完璧に動いていたロボットが、現場では転倒したり、誤動作したりした。修正には数カ月を要することも珍しくなかった。

Isaac SimとROBOGUIDEの連携は、この「仮想と現実の断絶」を消した。ファナックの全ロボット(可搬質量3キロの小型から2.3トンの大型まで、協働ロボットCRXシリーズを含む)が、Isaac Simの「Open USD SimReadyアセット」として選択可能になった。ロボット実機と同じアルゴリズムを使った正確な軌跡とサイクルタイムで、現実のロボット動作をIsaac Sim上で完璧に再現できる。

仮想で完成させたAIモデルが、そのまま現場に移植できる――これは、フィジカルAIの開発スピードを劇的に変える変化である。本連載第1回〈「日本はAIで完敗」は大間違い…米国が100兆円投じても手に入らない、ヤマトやトヨタが持つ「最強の逆転カード」〉で論じた「学習し続ける現場」の循環は、ファナックのロボット周りで、もはや実装段階に入った。

第2の変化は、ロボットが「自ら考えて動く存在」になった、ということだ。エヌビディアの小型AIコンピューター「Jetson(ジェットソン)」がファナックのロボット本体に搭載される。これにより、センサーが感知した情報をロボット自身の内部で即座に処理し、次の動作をその場で判断できるようになる。

クラウドや外部サーバーへの往復が不要。ロボットが「命令を待つ機械」から「自ら考えて動く存在」へと変わる。