ロボットが「命令待ち」をやめる日

これは、フィジカルAIの本質的な変化だ。本連載で繰り返し論じてきた通り、フィジカルAIとは現実世界に踏み込むAIである。現実世界は、クラウドへの通信遅延を許容しない。一秒の遅れが事故を生む。ロボットが現場で即座に判断できなければならない。Jetson搭載は、その物理的な要請に応える解である。

そしてファナックは、エヌビディアとの協業と同時に、もう一つ決定的な手を打った。オープンソースのロボット開発プラットフォーム「ROS 2(ロス・ツー、Robot Operating System第2世代、世界中のロボット研究者が共有で使う開発基盤)」用のドライバを、GitHub(ソースコードの保存・共有・管理ができる世界最大級の開発プラットフォーム)で公開し、Python(プログラミング言語、AI開発で広く使われる)を標準搭載した。

これが意味することは何か。世界中のAI開発者、ロボット開発者、研究機関、スタートアップが、ファナックのロボットを「開発基盤」として使えるようになった、ということだ。

書籍で私が示した命題は明快だ――ファナックが選択すべきは、自社の絶対的信頼の上に、世界中の知恵を載せてしまうことで、自社が提供する身体を「標準の開発基盤」へ押し上げる戦略である。

それは、いま、まさに動き始めた。

ファナックの身体が、世界中のAI開発者が知恵を生み出す場になりつつある。「身体を握る者が知恵の流れを制御する」――言い換えれば、「外せない部位を握る企業が交渉力を持つ」――という論理は、もはや実装段階に入った。

溶接ロボット自動アームマシン
写真=iStock.com/ipopba
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AI最大のリスクは暴走ではない

ここで、本稿が日本の経営者に最も伝えたい論点を提示したい。フィジカルAI時代における最大のリスクは、AIが暴走することではない。AIが暴走したときに、それを物理的に止められないことである。

生成AIの時代まで、AIの暴走は「論理上の問題」だった。誤った回答を出す、不適切な内容を生成する――これらは画面の中の問題であり、修正してやり直せた。

しかし、フィジカルAIは違う。AIが工場で重さ数百キロの物体を持ち上げているとき、AIが介護現場で人間の身体に触れているとき、AIが手術室で医療機器を操作しているとき――そのAIが誤動作すれば、事故が起きる。物が壊れる。人が傷つく。

だから、フィジカルAIの社会実装には、「論理上の安全」だけでは足りない。「物理上の安全」が必ず求められる。

書籍『フィジカルAIの衝撃』で私が示した核心命題は、ここにある――フィジカルAIの社会実装においては、“論理上の安全”だけでは足りず、“物理上の安全”が必ず求められる。ファナックが提供をめざすべき価値は、「万が一AIが暴走した場合にそれを止められる身体」である。

この命題を裏付けているのが、ファナックの半世紀の蓄積である。