もちもちしておいしい米でも寿司は別
こうした理由から、寿司の世界では新米よりも古米が好まれることが少なくありません。新米は水分量が多く、柔らかく炊き上がるため、寿司にすると重たく感じられる場合があります。
一方、古米は水分が落ち着き、炊いたときに余分な水分を抱え込みにくい。その結果、調味料が入りやすく、寿司に求められる「軽さ」や「ほどけやすさ」を出しやすくなるのです。
具体的な品種を見てみましょう。寿司屋でよく使われるのは、ササニシキ、あきたこまち、はえぬきなどです。いずれも、粘りが控えめで、あっさりとした後味が特徴です。
日本で生産量の多いコシヒカリを使うところもありますが、コシヒカリは粘りが出てしまうので精米度合いや研ぎ方で調整したり、ブレンドしたりして使うこともあります。また、つや姫も寿司に合うお米の1つでしょう。
反対に、寿司に向かないとされる米もあります。
代表的なのが、ミルキークイーンに代表される低アミロース米です。これらの米は非常に粘りが強く、冷めても柔らかさが残ります。
家庭の食卓では「もちもちしておいしい」と高く評価されますが、寿司にすると口の中でまとまりすぎてしまい、ネタとの一体感を損ねやすい。ここに、「ご飯として美味しい米」と「寿司に向く米」の違いがはっきりと表れています。
また、最近では、寿司米向きの品種として「笑みの絆」という品種も開発されています。また、ササニシキとひとめぼれを掛け合わせた「東北194号」も寿司に向くとされ、一定の基準を満たしたものは「ささ結」という銘柄で展開されています。
これからも米の品種改良は進められていくので、どんな寿司に合う米が誕生してくるのかが楽しみです。
酢、塩、砂糖……美味しいシャリをどうつくる
シャリとは、炊き上がったご飯に合わせ酢(酢・塩・砂糖)を加えて仕上げたものです。使う調味料だけを見れば、とてもシンプルです。しかし、その味は決して単純ではありません。
どれほど良いネタを使っても、シャリが良くなかったら美味しい寿司にはなりません。そのため、シャリづくりは、寿司屋の理想とする味を実現するために、極めて繊細に設計されています。ここでは、シャリを構成する調味料に焦点を当てて見ていきましょう。
シャリの味を最も強く特徴づけるのが「酢」です。
寿司屋で使われる酢には、大きく分けて米酢系と赤酢系があります。米酢は、米を主原料として造られ、透明感があり、酸味がすっきりとしているのが特徴です。えぐみや雑味が少なく、素材の風味を邪魔しにくいため、白身魚や繊細なネタとも合わせやすい酢です。
一方、赤酢は熟成した酒かすを原料とし、米酢と比べてアミノ酸を多く含み、うま味や香りに厚みがあり、個性があります。
色味もやや濃く、酸味も角が取れてまろやかです。仕事を施して風味を引き出したマグロや、味の強いネタと合わせても、シャリが負けずに存在感を保ち、寿司全体に奥行きを与えます。
江戸時代の握り寿司では、赤酢が使われていました。その後、米を原料とした米酢が普及すると、白いシャリの色が生き、見た目も美しく、ネタの色合いを引き立てることから、次第に米酢が主流になっていきました。
現在、多くの寿司屋で米酢が使われているのは、素材の風味を邪魔しないという実用的な理由によるものです。
しかし近年では、赤酢が持つ香りやまろやかさ、その伝統に改めて価値を見出し、あえて赤酢を使う店も増えてきています。

