「シャリか、ネタか」の最終結論は出ない

理想のシャリは、手に取ったときにはきちんと形を保ち、持ち上げても崩れません。しかし、口に入れた瞬間には、力を入れずともはらりとほどけ、ネタと自然になじんでいきます。魚の旨みを最大限に引き出す味わいが求められます。

そのため職人たちは、炊き上がった米の水分量や粒の張り具合を細かく見極めながら仕込みを行います。その日の気温を考慮し、炊き加減や合わせ酢がどのように米粒に吸収されていくかまで逆算しながら仕込まれています。

酢飯の仕込み
写真=iStock.com/Yuuji
※写真はイメージです

これらを考慮しながらシャリを安定してつくることは、決して簡単なことではありません。かつては「シャリ屋」と呼ばれる、飯炊き専門の職人がいたほどです。

ネタを扱う職人とは別に、シャリだけを任される人が存在したのです。それほどまでに、シャリづくりは寿司の要であり、熟練の技術と経験が求められる仕事だったのです。

寿司の中心は、シャリか、ネタか。

この問いに明確な答えが出ないのは、寿司がどちらか一方を主役にする料理ではないからでしょう。シャリとネタが一体となったとき、初めて寿司は完成します。

ネタの品質や鮮度、仕込みといった仕事へのこだわりはもちろんのこと、ネタの旨みを最大限に引き出すものとして、シャリは重要な役割を果たしています。ネタとシャリ、そのベストな組み合わせを探り続けることこそが、寿司という料理の核心なのではないでしょうか。

寿司に理想的な米の条件

コシヒカリ、つや姫、ミルキークイーン。

白米を選ぶとき、銘柄を意識する人は少なくありません。甘みが強い、もちもちしている、冷めてもおいしい。私たちは日常の食卓では、「ご飯そのもののおいしさ」を基準に米を選んでいます。

寿司も同じく米を使った料理ですから、「どんな米を使うのか」は寿司の味を左右する大きな要素になります。

ところが実は、寿司に向く米と、普段の食卓で「おいしいご飯」とされる米は、必ずしも一致しません。ここでは、米そのものの性質に目を向けながら、寿司に向く米、向かない米の違いを整理してみましょう。

まず、寿司に理想的な米の条件です。

寿司に向く米には、大きく分けて3つの特徴があります。あっさりとした味わいであること、粘りが強すぎないこと、そして調味料が米粒の中まで浸透しやすいことです。

1.あっさりとした味わいであること

寿司では、米が単体で主役になるわけではありません。

ネタと一緒に口に運ばれたとき、全体としてどう感じるかが重要になります。そのため、米自体の旨みが強すぎると、ネタと合わせた際にシャリの存在感が前に出すぎてしまいます。あくまで控えめで、ネタを引き立てるあっさり感を持っていることが、寿司米には求められます。

2.粘りが強すぎないこと

また、粘りの強さも重要なポイントです。粘りが強い米は、口の中でまとわりつきやすく、シャリとしてまとめたときに「ほどけにくさ」が出ます。寿司では、噛む前からほろりと崩れ、ネタと自然に一体になる食感が理想とされます。そのため、もちもち感が評価される米ほど、寿司には扱いづらい側面を持っています。

3.調味料が浸透しやすいこと

酢や塩、砂糖といった味が、表面だけでなく米粒の内部まで均一に入り込むこと。これができないと、シャリの味にムラが生まれ、一貫としてのまとまりが失われてしまいます。寿司米にとって重要なのは、「味が強いこと」ではなく、「味がきちんと馴染むこと」なのです。