米国の経常赤字が当たり前である理由
ドナルド・トランプ大統領が掲げる「相互」関税という言葉ほど、実態にそぐわない表現もないだろう。名称こそ「相互」だが、実際には米国が一方的に押しつける仕組みにすぎず、そのやり方は大胆であり身勝手である。
米国は経常収支の赤字が続いていることを理由に「我々は不当に扱われている」と主張し、関税導入を正当化する。しかし、国によって「お金を今すぐに使うか、それとも将来のために貯めておくか」という価値観は異なっている。ある国は今の消費を最優先し、別の国は長期的な蓄えを重視する。こうした違いが存在する以上、各国の収支が自然と均衡するはずがない。
この点を理論的に明確にしたのが、シティグループのチーフエコノミストを務めた経済学者ウィレム・バウター氏である。彼は、早く消費したい国が、消費を後回しにできる国から借りるのは合理的で自然な行動だと説明した。つまり経常収支の赤字は「異常」でも「不公正」でもなく、国ごとの時間選好の違いに基づく経済の姿にすぎないのである。
実際に歴史を振り返れば、米国は長らく借りる側で、日本やアジアの新興国は貸す側であった。赤字を理由に他国を責め立てること自体、経済学的には筋が通らない。米国の主張は、経済理論を知らない国民向けの政治的パフォーマンスにすぎない。
関税交渉で日本は巨額の負担を背負った
では、今回の日米関税交渉の実態を見てみよう。合意内容は、米国が日本からの輸入関税を15%に引き下げる代わりに、日本が最大5500億ドル(約80兆円)を米国に投資するというものだ。日本のGDP(国内総生産)の1割以上に相当する巨額であり、まるで江戸時代の大名が「参勤交代」で江戸に向かい財力を奪われるような構図を思わせる。
しかし、合意の中身はさらに問題を含んでいた。当初「関税を15%に下げる」と説明されていたが、米国側は「従来の関税に15%を上乗せする方式」であると主張したのである。日本側は当然これを「合意違反」だと抗議し、修正を要求した。米国も誤りを認め、超過分の返金には応じる姿勢を示したが、肝心の大統領令の修正はいまだ行われていない。赤沢亮正経済再生担当大臣の訪米中止の背景には、このあいまいさと不誠実さがあった。
具体的に見れば、日本車への関税は25〜27.5%から15%に引き下げられるとされている。一見すれば譲歩に見えるが、その裏で米国は農産物をめぐって強い要求を突きつけていた。日本側は米国産の米の購入量を75%増やす程度で合意をまとめたが、全面的な関税撤廃には応じなかった。
結果的に、表向きは「双方が歩み寄った」ように装っているが、実態は米国が圧倒的に利益を確保し、日本が投資という形で巨額の負担を背負わされているにすぎない。米国側は「投資利益の9割は米国が得る」と繰り返し主張し、日本側が互恵性を求めても相手にされない。こうした姿勢そのものが、米国の現在の交渉スタイルを象徴している。
経済学者アダム・ポーゼン氏は『Foreign Affairs』誌で、米国は国際社会に秩序をもたらす公共財を提供してきたが、いまや自らの優位性を利用して利益をむさぼる存在に変わった、と指摘している。私もこの評価に全面的に同意する。
米国に屈せず根比べに勝つ必要がある
かつて米国は、世界経済の安定を支える「保険提供者」であり、国際秩序を守るリーダーだった。しかし現在は「利益搾取者」へと変貌した。実際、関税導入が宣言された後、米国の信用は低下し、10年物国債の利回りは上昇し、ドルの価値は下落した。市場は米国の姿勢を支持していないことを示している。
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