トランプ大統領が大間違いである理由
世界経済はいま、トランプ大統領が打ち出した「相互関税」宣言により大きく揺れ動いている。ニューヨーク市場では株価が歴史的な急落を記録し、その後も激しい乱高下が続いている。長期国債の金利も上昇し、金融市場全体が不安定化している。
関税の経済効果については、経済学の初歩で学ぶ「需要と供給」の価格理論でかなりの部分が説明可能だ。しかし、関税によって生じる世界経済全体の損失をいかに抑えるかは、より高度で複雑な問題である。
まずは自動車市場を例に、関税の影響を需要・供給曲線の図を使って説明しよう。図には、米国市場での自動車価格と、それに応じた米国民の輸入需要量を表す需要曲線DD、そして外国から米国への輸出供給量を示す供給曲線SSが描かれている。関税が存在しないとき、自動車の市場価格はDDとSSが交わる点、すなわちWPの水準で決定する。
ここで、仮にアメリカ政府がSTに相当する関税を課したとしよう。輸入業者はこの関税を支払わなければならないため、消費者が直面する実質的な供給曲線は、関税分だけ上に平行移動し、SS2となる。その結果、価格はXSまで上昇し、輸入される自動車の数量はUSに減少する。輸出業者の手取りはXTにとどまり、XSからXTまでの差額が関税として米国政府に徴収される。この関税収入は、関税額と消費量をかけ合わせたもの、つまり図で示される四辺形USTV(①+②)の面積に相当する。価格の上昇によって消費者は高い買い物を強いられ、しかも台数も限られるため、より少ない自動車しか消費できない状況となる。
トランプ大統領は「関税はアメリカ国民ではなく外国の輸出業者が支払う」と主張しているが、現実にはその一部がアメリカの消費者に転嫁されている。経済学では、これを「税の転嫁」と呼ぶ。
たとえば、関税収入のうちUSRQ(①)に相当する部分は、価格上昇によって負担を強いられるアメリカの消費者の損失である。さらに、価格が高騰したことで購入を断念する消費者も生まれるので、三角形SPR(③)の分だけ、追加の社会的損失が発生する。
一方、日本などの輸出国では、輸出業者の手取り価格が下がることにより、QRTV(②)分の収入を失い、販売数量の減少で三角形RPT(④)の分、社会的損失が生まれる。これらは輸出国側の明確な損失である。
米国政府は四辺形USVT分の関税収入を得るが、その一部はアメリカ国内の消費者が価格上昇という形で負担している。そのため、純粋に「外国からの移転」としてアメリカが得をするのは、四辺形QRTV(②=輸出国の損失)から、三角形SPR(③=アメリカ国内で発生する損失)を差し引いた部分だけである。このとき、アメリカ政府が得られる純利益が最も大きくなる関税率の水準を、「最適関税率」と呼ぶ。
ここで視点を変え、輸入国・輸出国それぞれの立場を超えて「世界全体の経済的損失」に注目すると、以下のような構図が見えてくる。
輸出国では、生産者が三角形RPT(④)に相当する損失をこうむり、輸入国では高価格により商品が消費されないため、三角形SPR(③)の分だけ損失が生まれる。したがって、世界全体で見ると、関税の導入によって三角形SPT(③+④)の分だけ福祉(社会的余剰)が減少することになる。
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