トランプ大統領の演説が史上最長になったワケ

日本人からの手紙を受け取るのは、特に戦前の教育を受けた女性からのものは楽しい。私に俳句の趣味はないが、日本文化には「省略の美」があり、季節の美しさを最小限の言葉で鮮やかに表現する伝統がある。一方、西洋文明は物事を詳細に分析することを理想とする。日本の手紙からは、冒頭の数行で季節感や生活の印象が簡潔かつ鮮やかに伝わり、書き手の面影までも優雅に感じられる。

さて、日本の手紙の多くには「いつも大変お世話になっております」という書き出しが見られる。日本人はなぜ、具体的に相手に助けられていなくても、このような表現を用いるのか。この疑問をもとに、このコラムを書くことにした。

もちろん、私たちは家族や職場、友人関係などで互いに協力し合わなければ生きていけない。しかし、全く関わりのない相手にも恩恵を認める必要があるのだろうか。

これは、日本人、特に多くの日本人女性が持つ傾向にある「伝統的な美徳」の表れともいえる。男性が競争と協力の中で生きるのが当たり前であるのに対し、女性は社会を円滑にするために他人からの世話を認める役割を担ってきたというのが「伝統的」な考え方だろう。

これに対して、アメリカの手紙は通常、より形式的で、言いたいことを明確に伝える。“Dear Koichi”“Hi, Koichi”といった挨拶の後、すぐに本題に入るのだ。

極端な例として、ドナルド・トランプ大統領の史上最長と話題になっている施政方針演説がある。彼は「私が大統領に就任した後、アメリカは偉大な国に生まれ変わる」と強調し、さらに「ジョー・バイデンは史上最悪の大統領だった」と繰り返した。いかにも自己顕示的な演説である。

トランプ大統領の演説
米国のドナルド・トランプ大統領は3月4日、連邦議会上下両院合同会議で施政方針演説を行った。

芸術でも同じことがいえるかもしれない。たとえば、ベートーヴェンやブラームスの交響曲の終楽章は、起伏ある和音進行が終わるかと思えばまた盛り上がり、「これでもか」と続く。しかし、日本の邦楽では、宮城道雄の「春の海」のように、のどかな春の雰囲気がふんわりと伝わったところで終わる。

日本人読者のみなさんは、日本がアメリカのようになっては困ると考えるかもしれない。しかし、日本社会は、ただ言葉が親切で丁寧で優しいだけでいいのだろうか。