無一文から実業家として成功し、「アメリカンドリーム」を地で行く数少ない日本人の一人が、ヨシダグループ会長の吉田潤喜氏だ。約43年前、アメリカでクリスマスギフトとして作った母親直伝の焼き肉のたれが、世界11カ国で販売されるヒット商品に大化けした。しかし、その過程は苦労と失敗の連続だった――。(前編/全2回)
アメリカのスーパーで実演販売する吉田潤喜氏
写真提供=ヨシダグループ
アメリカのスーパーで実演販売する吉田潤喜氏

「業界トップのハインツ」の隣を死守

「スーパーのオリエンタル食品コーナーには、ヨシダのグルメソースは絶対に置かない。業界トップのハインツのバーベキューソースの隣に置く、と最初から決めていた。ところが、周りからはヨシダのソースが何様のつもりだ、いい気になるなと言われた。『コンチクショー! 今に見てみい』という反骨精神でここまで突っ走ってきたんや」

ヨシダグループ会長の吉田潤喜(75)は、1982年創業当時をこう振り返る。

ヨシダのグルメソース」といえば、カウボーイハットを被った満面笑顔の吉田の顔がトレードマークだ。ある時はエルビスプレスリー、ある時はカウボーイハットと下駄、着物姿で店頭に立ち実演販売を始めたことでも、吉田は知られている。

全米大手スーパーのソース売り場では、このトレードマークのボトルがハインツのソースと並び、ロングセラーとして根強い人気を誇る。

味のベースは日本の醤油だが、アメリカで当時知られていた日本のテリヤキソースとしてではなく、どこの家庭でもおなじみの「バーベキューソース」として売ることにこだわった。

そのソースは今や日本など海外11カ国でも販売され、年商250億円のヨシダグループ18社の基幹事業に発展した。

ヨシダグループ本社
写真提供=ヨシダグループ
ヨシダグループ本社

秘訣は「人儲け」と「思いやりの心」

日本では、30~40代の女性の間で、焼肉や煮物、炒め物に使える万能調味料としてSNSで広がり、人気を集めている。

ヨシダのグルメソース。公式オンラインショップやAmazonなどで販売している。全国の取扱店舗は公式サイトで紹介
ヨシダのグルメソース。公式オンラインショップやAmazonなどで販売している。全国の取扱店舗は公式サイトで紹介(写真提供=ヨシダグループ)

吉田は2001年、その功績がアメリカの中小企業局に認められ、50周年記念に選んだ全米24社の中に、FedExやインテル、AOL、ヒューレットパッカードなど並んで「殿堂入り」した。

また、2005年には、雑誌ニューズウィーク日本版「世界が尊敬する日本人100」にも選ばれた。

成功の秘訣は?と聞かれる度に、吉田は必ず満面笑顔でこう答える。

「金儲けの仕方は? 成功の秘訣は?と、よう聞かれるけどな、人に好かれて信頼されて、人から頂いた恩を返す『人儲け』と、相手の立場を思う『思いやりの心』」が一番大事や。商売にも、人生にも、その心しかないんちがうかな」