ガソリン税暫定税率廃止は物価高の解決にならない
ITの進歩で自民党総裁選の模様が瞬時に世界へ伝わる時代になった。アメリカの家庭でも、日本政治の動きがニュース番組やネットを通じて報じられている。9月29日時点でのFNNによる自民党所属国会議員の動向調査では、小泉進次郎氏が優勢で、林芳正氏、高市早苗氏がそれを追い上げているようだ。
今回の総裁選で奇妙に感じたのは、経済に直結するインフレや円安がほとんど議題にならなかったことである。小泉候補はガソリン税暫定税率の廃止を訴えたが、私に言わせれば、現在の日本経済で最大の課題はインフレの抑制と、不当な円安の是正にある。
インフレは放置すれば国民生活を直撃し、円安は交易条件を悪化させて日本全体を「安売り国家」に変えてしまう。にもかかわらず、総裁選の論戦ではガソリン価格引き下げといった対症療法が語られるばかりで、根本的な問題が軽視されていた。
インフレを止める方法は決して難しくない。本来なら日銀が臆せず金融政策を修正し、「イールドカーブ・コントロール」(長期金利を低く保つ政策)導入以前の伝統的な枠組みに戻って、短期金利を引き上げればよい。インフレの番人は今も日本銀行にほかならない。
ところが近年の日銀は、政治や市場の反応を過度に恐れ、正攻法の引き締めを避けてきた。そのため、インフレが広がっているのである。総裁選で必要なのは、国民に聞こえのよい減税ではなく、日銀が責務を果たしインフレの根を断つことだ。
インフレ下では税収が増える。これは「自動安定化装置」が働いている証拠だ。自動安定化装置とは、景気が過熱すれば税金が多めに取られて勢いが落ち、不況になれば失業給付などが増えて落ち込みを和らげるといった、政府が新たに政策を打たずとも景気を安定させる仕組みのことだ。
にもかかわらず、ガソリン税の軽減でインフレの影響を補おうとするのは、経済政策の目的と手段を取り違えたものである。
中央銀行が為替に最も影響を持つ理由
では、インフレと円安が実際にどのような被害をもたらすか。昨年の年平均有効求人倍率は1.25で、日本は深刻な人手不足に直面していた。賃金と物価が同時に上昇するのは必然である。債券など固定利付資産の価値はインフレで目減りし、日々の生活費に追われる低所得層にとっては深刻な打撃となる。インフレは社会全体に不安を広げる。
円安の弊害も見逃せない。外国人の友人から「日本は旅行するには素晴らしい、特に円が安いのがありがたい」と言われることがある。しかし円安が行きすぎれば、交易条件――輸入品と輸出品の価格比率――が日本に不利となる。輸出品は安値で売られ、観光客は安価にサービスを享受できるが、国民は輸入品を高値で買わされる。
2012年の平均為替は79.8円/ドルという歴史的円高水準で、輸出産業は疲弊した。17年は112円前後と比較的安定した中庸の水準にあり、企業活動も落ち着きを取り戻した。ところが24年には151円を超える水準に達し、急激な円安が生活必需品やエネルギー価格を押し上げ、国民生活を圧迫している。
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