思いやりのある判定で野球へ恩返し
8月2日午前9時、伊勢原球場。日本リトルシニア中学硬式野球神奈川県大会の準決勝戦(「中本牧」対「相模原中央」)。朝方ですが照りつける夏の日差しは強烈で、グラウンドを焦がす勢いです。真っ黒に日焼けした選手たちは、試合前の練習から緊張の面持ち。スタンドには親御さんたちが陣取り、声援の準備に余念がありません。この試合で、私は球審を務めます。
3年生の選手にとっては、中学の仲間たちと挑む最後の大会です。彼らの思いと覚悟に応えるためにも、すべてのプレーを公平公正に裁くという誓いを新たに、私はマスクを被ります。プレーボール!
審判員を始めたのは、息子が小学2年生から始めた学童野球がきっかけでした。あるとき、チームから「審判をやってもらえませんか」と頼まれたのです。息子がシニアリーグに転じると、今度は審判部の方から「高校野球のライセンスを取っては」と勧められました。神奈川県で高校野球の審判員になるには、まず県野球連盟に加盟する支部に所属して推薦を受ける必要があります。そして、毎年3月に開催される講習会に3回出て、筆記と実技テストに合格すると、晴れてグラウンドに立てるのです。「3年後には息子と同じ場所に立てるかもしれない」と、研鑽を積みました。
夢が叶ったのは一昨年夏、横浜スタジアムで行われた全国高校野球選手権神奈川大会の開会式でした。整列した我々審判団の前を息子の高校が行進し、妻と娘がスタンドからその様子を見守りました。甲子園出場こそ果たせませんでしたが、息子が野球に打ち込んだ10年間、家族の心がより結束しました。今は人生を豊かにしてくれた野球への恩返しとして、審判員を続けています。
アマチュア野球の審判員はボランティアです。高校野球の場合は交通費と弁当代として数千円程度(神奈川県の場合)が支給されるものの、用具や審判服は20万円近くしますし、シニアリーグは完全に手弁当です。それでも、ほとんどの審判員は野球への情熱や貢献の思いから、それぞれ仕事の都合をつけてグラウンドに立っています。
選手たちには日頃の練習の成果を存分に発揮し、悔いのないプレーをしてほしいと思います。たとえば試合終盤、代打で出てきた控えの選手が、緊張のあまり慌てて打席に入ろうとすることがあります。そんなとき、私はタイムをかけてホームプレートを掃きながら「しっかり素振りしていいよ」と声をかけます。場内アナウンスが選手の名前をコールしている間に、スタンドの親御さんたちが息子の雄姿をしっかり目に焼き付けられるように――。判定に感情を差し挟むことはありませんが、そうした思いやりは大切にしています。
9割の選手が高校3年生の夏で野球人生を終えるのです。だからこそ一球一球に込められた思いの重さを感じ、正確な判定で彼らの努力に応えることが、審判としての使命だと思っています。
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