社長や役員、部門長など、社内の経営幹部と少人数で卓を囲むような会食。相手は同じ会社の人だからといって気は抜けません。自分の評価を高め、ライバルに差をつけるには、経営幹部との会食は自己アピールにうってつけの場です。幹部の心を掴み、自分のアピールにも使える日本酒をご紹介します。
「お酒は何がいいかね?」と聞かれたらどうするか
会社の経営幹部からの声掛けにより設けられた会食の場。気心の知れた同僚や部下とのカジュアルな飲み会とは違い、落ち着いた雰囲気の和懐石料理が提供されるようなお店が想定されることも多いでしょう。静かな店内で限られた人数のなか、今後の会社のビジョンや戦略を聞いたり、自分のチームの状況について上役からヒアリングをされる会食は、重要な取引先との会食と同様、決して気を抜けないシーンです。お店選びからお酒の選定に至るまで抜かりなく行い、自分の能力を幹部へアピールするいい機会でしょう。お酒選びについても、料理に合うことはもちろん、その場に相応しく、上役の心を掴む1本を選べるかどうかで、あなたの評価が変わってきます。
会食の始まりとともに飲み物のリストを手渡され、幹部から「何がいいと思うかね?」との一声が。相手の味の好みを把握できていなくても使える、「おお! それだよ」と喜ばれるような抜群のアピール力をもつ日本酒の選び方があります。
経営幹部が必ず気に入る「5つの条件」
経営幹部の方々がお酒を飲みだしたであろう1970年代から80年代後半といえば、日本酒界は地酒ブームと吟醸酒ブームの真っ只中。JRの前身である国鉄が展開した「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンをきっかけに人々の関心は地方に向かい、土地ごとの風土と個性を映した日本酒も人気になっていきました。
一方で華やかな香りの吟醸酒に注目が集まり、猪口をグラスに持ち替えて日本酒を楽しむ人が急増。80年代はバブル経済期と重なったこともあり、プレミアム感への憧れやときめきも象徴的な嗜好といえるかもしれません。嗜好は吟醸酒から、さらに上級クラスの大吟醸酒へ。味わいでは、新潟酒に代表される淡麗辛口が流行の最前線でした。
そんな彼らのノスタルジーに訴え、高級料理にも合う日本酒の条件を集約すると、下記の5箇条になりそうです。
①地方を代表する銘醸蔵の大吟醸
②エレガントな淡麗辛口
③カニ、フグ、鮎など高級魚介と相性のよい食中酒
④円熟の風格と上質感
⑤入門者もマニアも魅了する飲み心地
この条件にぴったり合い、高級料理店で見つけたら必ず頼みたい銘柄をご紹介しましょう。
高級懐石料理に合いつつ、幹部のノスタルジーも刺激する
その1本とは、福井県の銘酒「黒龍」——。蔵元は文化元年(1804年)の創業から約220年続く歴史を誇る黒龍酒造。酒蔵は禅の修行道場として知られる永平寺のお膝元に立地。蔵の仕込み水の源であり、蔵名の由来でもある九頭竜川が近くを流れる、のどかな自然環境に囲まれています。
家庭用の晩酌酒から高価なプレミアム酒まで幅広いラインナップをもつ「黒龍」ですが、どのクラスにも共通しているのが、一口で万人を惹きつける圧倒的な品格と、絹のように滑らかで艶のある飲み口、そしてクリアなまま消えていく後口のキレのよさ。香りは華やかでフルーティー、かといって派手さはなく、どこまでも上品で繊細。上質な酒米と九頭竜川の軟水で丁寧に醸す伝統は固守しながら、常に時代の一歩先を見据えた酒造りにもチャレンジを続ける、日本酒界のトップランナーでもあります。この「黒龍」のビジョンを体現しているのが、上級クラスの大吟醸酒。上役との会食に選ぶのにもっとも相応しいモデルとしておすすめです。
この北陸の老舗蔵が一躍全国に知られるきっかけをつくったのは、1975年に発売された「大吟醸酒・龍」(以下「龍」)でした。それまでは鑑評会出品用が中心で、一般には手に入りにくかった大吟醸酒をいち早く商品化。山田錦40%精米のハイスペックモデルで颯爽と登場し、「日本一高級な日本酒」として注目を集めたのも、この1本。その後も昭和の吟醸酒ブームを牽引し、デビューから50年近くが経った今も「黒龍」のフラッグシップであり続ける記念碑的な大吟醸酒です。
「龍」の真価が最大限に発揮されるのは、食中酒として料理に合わせたとき。ポイントは、クリアな透明感だけには終わらない、香りと米の旨味が緻密に練り込まれた味わい深さ。蔵元がフランスを訪れた際、ワイナリーの熟成庫を見てヒントを得たという蔵独自の低温貯蔵により、熟成の旨味を滑らかにのせているのです。
福井県といえば、ズワイガニの最高級ブランド「越前ガニ」が有名ですが、地元・福井の料亭や料理旅館でカニに合わせる日本酒といえば、まず「黒龍」です。カニ肉の濃縮した甘味や味噌の濃厚なコクと無敵の調和ぶりは、実際に飲んで味わえば納得。北陸の高級魚のノドグロや甘鯛の焼きものとも申し分なく、魚料理が多い懐石コースと合わせるのに盤石の1本といえます。
ちなみに、「黒龍」の最高級モデルの純米大吟醸「石田屋」は今上天皇に称賛され、ご成婚の際の引き出物にも使われて話題を呼んだ皇室御用達ブランド。毎年11月末に販売され、生産量の少なさから入手が困難を極め、「幻の酒」とも呼ばれる限定品です。
最高級の山田錦を35%まで磨き、低温発酵で丁寧に醸した大吟醸に、氷温熟成できめ細かな旨味をのせた極上の味わいは、まさに工芸品。美しいブルーのボトルとともに、日本酒好きの憧れを一身に集める存在です。
「黒龍」を一番おいしく飲めるグラス選びとは?
ペアリングに注力する高級和食店の中には、クラス違いの「黒龍」をリストにのせている店も多数。どれを飲んでもまず外れはありませんが、注意したいのはグラスの選び方について。全体に繊細でスマートな酒質なので、厚みのあるぐい呑みよりも薄手の磁器や漆器、贅沢を言えばクリスタルやうすはりの冷酒グラスがあれば理想的。香りを楽しめるようにと蔵元で開発した専用のグラスもあるので、店に確認してみるといいかもしれません。
上役が顔を揃える会食となれば、お酌の回数も多くなることでしょう。同じ銘柄でも複数の種類(米違い、クラス違い、火入/生など)を注文した場合は、前の酒の入ったグラスが空になってから、「よろしいですか?」の一言を添えて次の酒を注ぎ足すのが基本。味が混ざってしまうとバランスが崩れ、おいしさも感動も薄れてしまいます。
プレミアムな日本酒だからこそ、飲み手も敬意を払い、最大限においしく味わえる心遣いを忘れないようにしたいですね。


