誰もが引き込まれた「脳卒中」の実体験とは
脳科学者であるジル・ボルト・テイラー氏は、プレゼンカンファレンスTEDのステージで本物の人間の脳を披露すると、右脳と左脳をぱっかり割ってみせた。観客が一瞬どよめくが、彼女は「脳は左右分かれて異なる働きをするものであり、脳梁がそれをつないでいる」と説明した。
私たちの日常で、本物の脳を見る機会などそう得られるものではない。ジル氏は観客の目をしっかりとステージに釘づけにした上で、それ以上に衝撃的な話を繰り広げていった。
ある朝、ジル氏自身に異変が起きたという。右脳と左脳がバラバラの働きをはじめ、ぼんやりと穏やかな考えと、論理的な思考が交互にやってくる。自分で左右の脳を制御できなくなり、右半身が麻痺していくことから、とっさに「自分は脳卒中だ」と感じたという。
脳を知り尽くした科学者が「自分は深刻な事態にある」と察知したことは、想像に難くない。けれども、彼女が発した言葉は「これってスゴクない!? 脳卒中を内側から観察できる!」。脳科学者ならではの言葉に、思わず笑いが起きた。そして、人間は脳卒中によっていかに思考力が落ち、体の運動能力が衰え、一貫性を失い、言語、感覚……ひとつひとつの機能を奪われていくかを、体の内側からつぶさに経過観察していくさまを説明していった。