合格家族――東大卒パパの「偉大なる放任」「素敵なダメっぷり」

これまでに東大生を数千人も送り出してきた人物がいる。駿台予備学校・東大専門校舎の校舎長・塚原慶一郎だ。予備校のスタッフといえば、校舎と関連部門の異動を繰り返すものだが、塚原は校舎部門一筋29年。駿台で最も長い現場経験を持つ柔和な物腰の大ベテランだ。

かつてかかわった東大生はあちらこちらに散らばっている。人間ドッグの検査中の医師から突然、あるいは駅のホームで後ろから、飛行機で前の座席からガバッと振り返られ突然、こう尋ねられる。

「塚原さんですよね」

そんな塚原の記憶に残るのは、2人の東大卒パパだ。

「こんなに長くやっていますと、親子2代で東大という方が結構いるのですよ。父子で東大卒の家庭は、親子とも好奇心旺盛という共通点があるように思います。また、子供のころから博物館や科学館などに意図的に連れていかれる方がおられますが、子供が興味を持たなければ逆効果になることもあります。その点、東大卒のお父さまは、あくまでも子供が自発的に興味ある世界に触れられる環境を自然とこしらえる印象がありますね」

たとえば、東大文科三類に最高点で合格した達也くん(仮名・以下同)は、読書好きな父親・寛さんに「本を読みなさい」と強要されたことは一度もなかった。だが、自宅には寛さんの多ジャンルにおよぶ蔵書が並ぶ本棚があり、そこで父親が楽しそうに読書にふける光景を見ながら、達也くんは成長した。

子供のころ、アニメ「ゲゲゲの鬼太郎」に魅せられた彼は、興味の赴くままに、父の本棚の怪談や民俗学の本を読んでいるうちに、寛さんも驚くほどの知識を蓄えていった。その豊富な知識量は、やがて読書家の父親さえ一目置くレベルに達する。