塚原は親に対して萎縮してしまっていた子供が、親の前で本音を語ったとき、この仕事のやりがいを感じるという。その瞬間こそが、自立の第一歩。もっと言えば本当の人生のスタートだからだ。通常の三者面談は20分程度だが、そのためなら1時間でも2時間でもかける。

「親子で口論になりかけたら、『ここは本人の気持ちを聞いてあげてください』と親御さんを制したり、ときにはお互いの本音をぶつけ合わせ、しっかりケンカしてもらうこともありますよ。涙ながらに子供が親に本音をぶつけたときから、ようやくまっとうな親子関係が始まるわけですからね」

本音を吐き出した子供は割とすっきりとした顔つきになり、それとは対照的に、親は予期せぬ子供からの告白にさびしげにしょげ返る場合が多いようだ。依存から自立への脱皮――。勉強ができるだけで親に言いたいことも言えないのに東大に合格する子など、そう多くはない。直人くんも東大は落ちたが、進路は決まった。工学部だった。あれは東大合格以上に価値のある自立した進学になったと塚原は振り返る。

今から20年以上も前、予備校主催の保護者会に参加する親は全体の2割ほどだった。それが今では、7~8割は出席するというから、時代は変わった。OB体験談やデータ分析報告、親と受験生の接し方などを盛り込むなど、予備校側がかつてとは比べものにならないくらい保護者会に力を入れている事実はあるが、それを差し引いてもである。

親子の距離はますます近くなり、大学受験まで親子で戦うものになってきている。過干渉とベストサポートのはざまで、多くの親が揺れている。受験は親子が向き合う最大のチャンス。お宅の親子の距離感はいかがだろうか。

教える人:塚原慶一郎/駿台予備学校 東大専門校舎 校舎長
駿台予備学校の東大専門校舎校舎長。1984年、駿河台学園に入職。駿台予備学校教務部職員として四半世紀にわたり受験生を側面から支えてきた。東大専門校舎、医学部専門校舎等の校舎長を歴任。モットーは「Good Job!」「いい仕事をしよう」。
(教える人:駿台予備学校 東大専門校舎 校舎長 塚原慶一郎)
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