「いろんなことを父親自身が楽しくやる。その姿を子供に見せているのですね。決して、親の側から過度に何かを与えることはしない。それで十分なのです、親から何でも与えられてきた子は、知識欲に乏しい傾向があると思います。優秀な子同士でも、そういった差はありますね。与えすぎないということが重要な支援なのだと痛感しています」
もう1人の東大卒パパは、カッコいい姿だけでなく、カッコ悪い姿も見せた豊さんだ。われわれ平凡な親はこう思う。頭のいい父親だから、頭のいいアドバイスをしているのだろう、と。それは正反対だと塚原は言う。
豊さんの場合もそうで、「お父さんが東大に受かったのは、20年以上前のことだから、入試問題も入試制度もまるで違う。俺がアドバイスしたらおかしなことになるだろう」と伝えたらしい。
「受験の失敗談なんかも積極的に話してあげる方でした。受験勉強で行き詰まりがちな息子をよく笑わせておられたようです。自分が大学受験したときは、併願した早稲田と慶應に落ちてむしゃくしゃしたから、1日勉強をサボって映画館で気分転換したんだ。とか」
息子の栄一くんによると、どんなにテストでいい点を取ってきても、豊さんは特別褒めはしなかったそうだ。ただし、スランプに陥り、落ち込んでいると、こんなことを言ってきたそうだ。
「東大に受かったら、もてるよ! だって、お母さんと結婚できた……」
東大卒の豊さんが、実際にもてたかどうかは不明だが、お父さんの微笑ましいノロケ話が栄一くんの肩の力が抜ける絶妙の声掛けであったことは間違いない。