合格家族――次男にかけたお金「5分の1」。だからこそ受かった

「お母さま、おめでとうございます。今はお母さまがゆったりとした気持ちでいらっしゃるから、上のお嬢さまは、中学受験ではきっと大丈夫ですよ」

個別指導塾エルクの塾長・奥野孝子は、洋子さん(仮名・以下同)にそう言って、弟の海斗くんの慶應義塾横浜初等部への合格を祝福した。「ありがとうございます」と落ち着いた態度で言い、深々と頭を下げるワーキングママを見ながら、奥野は2年前のことを思い出していた。長女・陽菜ちゃんは慶應義塾幼稚舎に落ち、別の私立に行くことになったのだ。

「もう悔しすぎて、私、ランドセルが今も買えないんです」

受験失敗で、すっかり取り乱した洋子さんが電話口でそう言ってしゃくり上げる声が、今でも奥野の耳に残っている。今の彼女とはまるで別人だった。

長女の受験では、慶應義塾幼稚舎を目指して、幼稚舎専門塾をはじめ、大手受験塾、絵画教室、体操教室などに3年間で約1千万円を注ぎ込んだものの不合格、すっかり自信を失い、次に控える海斗くんの受験を前に「どうしていいかわからない」と奥野を訪ねてきた。聞くと、受験塾では洋子さん自身が徹底的にダメ出しをされていた。

「本気で幼稚舎を受験させるなら、保育園はやめさせなさい!」

「3歳なら数字が読めて当たり前」

「あなたのような母親は幼稚舎向きではありません、その喋り方や性格を直さないと、娘さんは合格できませんよ」