子供たちの平日の睡眠時間と、記憶に関係する脳の領域、海馬の大きさの関係が最新の研究で明らかにされました。もし、お子さんが寝る間を惜しんで受験勉強しているなら、要注意です。
「寝る子は脳も育つ?」
こんな刺激的な見出しがメディアに躍ったのは、2012年9月半ばのことだった。
東北大学東北メディカル・メガバンク機構の瀧靖之教授らが同大学加齢医学研究所で行った「健常小児における海馬体積と睡眠時間の相関」という研究が、このセンセーショナルな見出しの根源だ。
俗伝で「寝る子は育つ」というが、海馬といえば脳の中で記憶に関わる領域。もしかすると、よく寝る子供は頭がよくなることが証明されたのだろうか?
今回発表された研究成果は、ある疑問からスタートしたと瀧先生は言う。
「以前から、心理学系の複数の研究者が、睡眠時間の短い子供はより多く眠っている子供に比べて学業成績が劣ることを報告していました。学習の基礎は知識を記憶することですから、こうした報告の存在は、子供の睡眠時間の長さと記憶に関わる海馬に何らかの相関関係があることを示唆しているのではなかろうかと」
海馬とは、脳の両側にある側頭葉の内側にある領域で、記憶を司るといわれる。海馬は入ってきた情報を数十秒間ほどの短期記憶に形成し、それを長期記憶に固定する働きをしているとされる。
長期記憶には「江戸幕府は1603年に成立した」というように言語化できる「陳述記憶」と、自転車の乗り方のように言葉では表現できない「手続き記憶」の2つがあるが、海馬は陳述記憶と関係が深いと考えられている。哺乳類の場合、誕生した後に神経細胞の数が増えることはないといわれる。しかし、海馬という領域だけは特別で、生後も神経細胞が増えることがわかっている。
瀧先生らは5歳から18歳までの健康な子供290人(男女比は半々)の頭部MRIを撮影して脳の形態を調べると同時に、詳細なアンケート調査によって同じ子供たちの生活習慣を調べた。そこから得られたデータを厳密な数学的手法を用いて年齢や性の差を補正し、解析した結果、たいへんに興味深い結果が得られたという。
「平日の睡眠時間と海馬の体積には、有意な正の相関が見られた。わかりやすく言うと、睡眠時間をより長く取っている子供は短い子供に比べて、海馬の体積が大きいことがわかったのです」