マイケル・ポーターの競争戦略論に代わる新しい理論とは、組織の記憶力はどうやって高めたらいいか、イノベーションを促進させる「両利きの経営」とは……ビジネスマンなら知っておきたい、経営学の最先端の知を、本場、アメリカの州立大学で教鞭をとる若手経営学者の入山さんがわかりやすく解説する。
本書執筆のきっかけは何か。
「世界の標準的な経営学と、日本でイメージされている経営学があまりに違うのに驚いたことです。例えば日本で大人気のドラッカーを読む経営学者はアメリカにはいません。私もドラッカーの価値を認めるのにやぶさかではありませんが、一方で、グローバルレベルの経営学の成果を日本人が知らずにいるのはもったいない、と」
アメリカがリードする世界の経営学は「科学」たることを目指し、企業を横断して通用する理論や統計データを重視する。個々の企業に着目して、なぜ強いのか、弱いのか、という「物語」を志向するのが日本の経営学だ。かといって、「日本の経営学が劣っている」と、入山さんが言いたいわけではない。「研究のプロトコルの違いがそうした形で表れているのでしょう。日本の経営学は、現場から得られる定性的な情報を言葉で叙述するスタイルが多いのですが、アメリカではデータを用いた統計分析が多用されます。その違いが、叙述志向の日本、科学志向のアメリカを生んでいるのでは」。
経営学の面白さとは、その発展途上性にあるという。どういうことか。「経営学は他の学問分野から理論的基盤を借りている応用科学であって、経済学系、認知心理学系、社会学系という3つの流派があります。結果、それぞれの基盤となっている学問に新しい知見が加わると、その基盤を借りている経営学が活性化するという関係にあります。例えば、不確実性の高い時代のあるべき投資計画法として、リアル・オプションという考え方が最近注目されていますが、これは経済学における先端のファイナンス理論をベースにしたもの。こういう発展性を常に秘めているところがいいんです」。
昨年11月の発売以来、売れ行きも好調の本書、執筆にかけた甲斐あったと、手放しに喜んでいると思いきや、入山さんは本を書いたことを少し後悔しているという。その間、研究に没頭していれば、いい論文がいくつか書けたかもしれない、というのだ。こうした貪欲さがなければ、最先端で生き残っていけないのだろう。数年後、続編を出していただき、ぜひ入山さん自身の研究成果も盛り込んでいただきたいものだ。