政治家が本を書くことは珍しくない。だが政治とメディアの関係を、当事者が分析するという内容は異例だ。しかもその要旨は「視聴率に踊らされる政治家」。民主党の参議院議員である鈴木寛氏は「テレビから干される覚悟で書いた」と話す。
「政治には政策決定と選挙という2つの側面があります。政策決定とは様々な課題に優先順位をつけ、利害関係の複雑な問題を政治責任で解きほぐすこと。その一方、いまの選挙はテレビの影響が非常に大きい。だから与野党で熟議を重ねても、芸能事務所に所属するような『テレビ政治家』が人気取りの発言で協議を壊してしまう。そうして政策決定が行き詰まった場面ばかりが放送されるから、政治不信が広がっていく」
日本人はテレビが好きだ。本書でも紹介されている「世界価値観調査」によると、テレビを信頼する人の割合は、80カ国中、中国、香港、イラクにつぐ4位。信頼度は米国がマイナス35%、英国がマイナス34%なのに対し、日本はプラス37%。先進国では異例の高さだ。
「これは日本がメディアリテラシー教育を極度にやってこなかったからです。テレビ報道は公正中立なものではなく、かなりのバイアスがある。そんな世界の常識が知られていません」
なにが問題だったのか。本書の第二章は「テレビ報道の歴史と田原総一朗の功罪」と題されている。田原氏は「僕は首相を3人クビにしたことがある」と公言して憚らない。それはテレビの影響力を自覚しているからだろう。鈴木氏は「田原さんの天才的な手法が縮小再生産されている」と指摘する。
「田原さんはテレビ以外では相手の話をじっくり聞く。でもテレビでは相手を強引に挑発します。視聴率が取れるのは、理性的な議論ではなく、感情のぶつかり合いだとわかっているからです。田原さんはあえてそうしていますが、形だけ真似て失言ばかりを追うようになった」
マスメディアへの問題意識から、鈴木氏は12年前からインターネット放送に取り組んでいる。今年7月の参院選ではネットを使った選挙活動が解禁される。東京都選挙区から出馬する鈴木氏は変化に期待を寄せる。
「この本で『民主党はテレビに潰された』などと主張するつもりはありません。自民も民主もテレビに振り回されてきた。その事実を知ってほしい。ネット選挙が解禁になり、僕個人の主張を届ける方法が増えました。この逆風下で、ネットを使ってどこまで戦えるか。悪くいえばモルモットですけど、それが僕の存在意義だと思うんです」