安倍晋三首相が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉に参加することを正式に表明した。米議会の承認を得られた後の7月に交渉に参加する見通しだ。

もともと安倍氏はTPP参加論者。側近らに「TPPに参加しないと日本の成長はない」と発言するなど、交渉参加に前向きだった。理由の1つには民主党対策もある。「民主党の支持基盤は(労組の)連合、中でもトヨタを中心とする自動車総連だ。自動車業界はTPP参加を強く求めている。TPP参加表明は民主党切り崩し策でもある」(自民党関係者)。

だが、ネックは今夏の参院選だった。安倍氏周辺が解説する。

「首相の悲願は憲法改正。そのためには憲法96条の規定で、衆参両院それぞれで総議員の3分の2以上の賛成で憲法改正を発議し、国民投票で承認を得なければならないが、このままでは難しい。まず96条の改正が必要だ。すでに衆院は改憲勢力が3分の2以上だが、参院では自民党は過半数割れ。96条改正には今夏の参院選での自民党圧勝が必須だが、TPP参加には自民党の圧力団体の農協が強く反発している。首相は“自民党の議員と強く結びついている個別農家は説得が可能。しかし組織を挙げて反対している農協の説得は難しい”と考え、今年初めの時点ではTPP交渉参加表明は参院選後にする腹積もりだった」

が、TPPを重点政策に位置づけるオバマ米大統領との会談を前に、潮目が変わった。

「安倍氏は初の外遊先として米国を希望したが、オバマから多忙を理由に断られた。普天間基地移設問題は宙に浮き、TPP交渉参加もなし、では会っても意味がない。“訪米したいなら手土産を用意しろ”ということだ。そこで首相は参加表明の前倒しを決意。2月22日の日米首脳会談が実現した」(外務省関係者)

だが自民党には「聖域なき関税撤廃を前提とする限り、TPP交渉参加反対」との選挙公約があった。そこで首相はオバマ大統領との会談で、聖域なき関税撤廃が前提でないことを確認。日米共同声明に「あらかじめすべての関税撤廃の約束は求められない」ことを盛り込むことに成功した。「これで、コメなどを例外扱いして農業を守る余地を残すことができ、農協の反対を抑えられる見通しが立った」(全国紙政治部デスク)。

毅然とした交渉は期待できるのか。

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