もう一度、前出の経産省メモに戻る。
「AAPCの主張」の欄には、実はこんな興味深い記述があるのだ。
「日本は、米国が貿易上の利益(TPP交渉への参加)を与える前に、市場開放に向けた具体的な対応を示すべき」
これは、明らかな「二重基準」である。米側には「自由市場を拒む力」と「TPP交渉参加を許して日本に貿易上の利益を与える力」が並存している。二枚岩ともいえるこの構造は何か。
米側の意味不明な非関税障壁論に対して、国内自動車業界はなぜ反論しないのかという筆者の問いに、自動車業界の関係者はこう回答した。
「我々は米側の意向を聞き、相談に乗り、それが解決されるよう政府に対しても働きかけをする立場です」
理不尽に攻められる立場が攻める側の意向を受け、“代理人”のように政府にも掛け合うとはどういうことだろう。そもそも、日本側の自動車メーカーは、仮に相手国の関税が障壁であれば、現地に工場を設けて“国内”販売し、逆に高い関税障壁に守られる立場にもなれる。世界各地に生産拠点を配置する「別世界」に生きているからだ。実際、そうした戦略が動いている。他のEPAごとに戦略パッケージ化したロジスティクスで、そのマキシマム効果も綿密に試算しているはずだ。TPPに参加すれば当然、さらなる市場拡張を実現できる。
だが、米側はそうはいかない。日本には自分たちにとって考えられないような税制があり、低燃費を実現する最先端技術がある。また、日本人の嗜好と高度なサービスの質を満たす術が米国にはない。TPP圏内で他の国の市場が成長する速度は、とても日本市場に置き換えられない。日本の自動車メーカーの技術力を得るかその力を削ぐことで、TPP圏での競争力をなんとか接近させたいところだろう。それが「安全基準崩し」だ。