アメリカ在住の著者が週刊誌で連載してきた時事コラムをまとめた本だ。ここでは、新しく生まれた言葉、話題を呼んだ人のセリフなどが取り上げられる。
登場する人物は、映画俳優やミュージシャン、スポーツ選手、政治家ら。特に多いのは、「お騒がせおばさん」のサラ・ペイリンなど保守に属する人々だ。どれも笑える話ばかりだが、話題はどうしても政治絡みの話へと接続されていく。ネタはスキャンダルでも、それが政治思想と無縁ではないあたりが、アメリカらしいところである。
「アメリカってイデオロギーから生まれている国なんですよ。ある上院議員は『アメリカは競争の国なのに敗者を救うようなことをしたのでは、欧州と同じになってしまう』と発言しています。えっ、と思いますけど、『たとえ自分が敗者として死んでも、自由は守られるべき』というのがアメリカの保守思想なんですね。競争に勝てば誰でも上にいけるという競争原理でアメリカは成功してきました。でも常にそれが支持されているわけではありません。今では格差が広がってモビリティが失われた。だから、アメリカは共和党による『ネオリベラル』の続行を望まず、オバマ大統領による『ネオニューディール』を選んだ。ディールとはカードの配り直し、つまり富の再分配という意味です。まだ、オバマは実行できずにいるんですけどね」
町山氏は映画や音楽などの大衆文化の紹介を通じて、アメリカの真の姿を伝えてきた。本書のおもしろさも、議会やホワイトハウスでの話ではなく、あくまでも俗っぽい世界で起こっている出来事の背景に、政治を見出しているところにある。
「アメリカではプロレスでも政治を題材にします。今回、プロレス団体WWEの元CEOが、上院選に共和党から出馬し、落選しました。金持ちのオーナー一族がリング上で横暴な振る舞いをする。これはヒール(嫌われ役)です。さらに民主党支持者を思わせるようなインテリ風のレスラーもヒールとして登場します。ところが、団体で一番人気があるのは、どちらにも荷担しないブルーカラー(労働者階級)のレスラーです。ここがアメリカの本体ですよ」
イデオロギーとは一体何なのか。それのあるなしは、どう国の在り方に影響するのか。
「日本はイデオロギーがないまま経済、福祉論争を続けてますよね。でも国家運営は実験です。だからイデオロギーが歯車になる。日本のように政局論争ばかりだと何も進まない。アメリカは、衰退してるけど脱する可能性は常にあるんです」