※本稿は、『あなたの健康は免疫でできている』(集英社インターナショナル)の一部を再編集したものです。
なぜ死者の約9割が70代以上なのか
図表は、2023年4月25日時点での新型コロナウイルス感染症による性別、年代別累計死者数を示したものです。厚生労働省のデータです※1。
年齢が進むにつれて男女ともに死者数が大幅に増えています。
60代をすぎると新型コロナによる死者数が増え、死者全体の約9割が70代以上の人です。
実は、これは新型コロナだけではありません。多くの感染症でほぼ同様の傾向が見られます。年齢が進むと、どの感染症にもかかりやすくなり、重症化しやすくなり、死亡リスクがぐんと高くなるのです。
老化と炎症とのスパイラル
これは主に老化によるものです。
一般に細胞は分裂できる回数に制限があり、ある程度分裂を繰り返すとそれ以上分裂ができなくなります。この過程で細胞の老化が始まり、種々の老化関連因子(「SASP〈サスプ〉因子」ともよばれる)が老化細胞で作られるようになります。
SASP因子のひとつに炎症性サイトカイン(免疫細胞から分泌されるタンパク質で、炎症時にたくさん作られる)があります。
炎症性サイトカインはSASP因子を作る老化細胞自身を刺激して細胞の老化をいっそう進めるとともに、免疫細胞をよび寄せ、炎症状態を作り出します。もしその場に遺伝子変異を起こした細胞がいると、SASP因子がその細胞に働いてがんを発症しやすくします。
どうもSASP因子が老化の過程でいろいろと悪いことをするようです。
ではどうして老化細胞がSASP因子を作るのでしょうか? これについては大阪大学の原英二教授のグループが面白い知見を報告しています※2。それによると、老化細胞では細胞質で不要なDNAを除去するために必要なDNA分解酵素の量が減り、そのためにゲノムDNA(遺伝子であるDNA)の一部が細胞質に溜まり始めるそうです。すると、このDNA断片が自然免疫反応を刺激して、その結果、SASP因子の産生が始まるというのです。
ここでも老化と炎症(免疫)がリンクしていることがわかります。