健康リスクは否定できない

本当にワクチン接種でできた抗体が期待通りに個体の中で老化細胞だけに対して働いていたのかは推測の域を出ません(たとえばGPNMB以外のよく似た分子に反応していた可能性も否定できません)。

現状ではGPNMBの生理的な役割が不明であり(老化以外に役割を持っているのかもしれず)、たまたま抗GPNMBワクチンが生体内でその役割をとめたということによるものであったかもしれません。

以上のことから、現状では抗GPNMBワクチンが老化細胞を除去して老化を止めたという結論を下すのは困難であると思われます。

また、自己免疫を誘導することによって老化細胞を除去しようというアプローチは実験的には面白いのですが、ヒトの自己免疫疾患の例で見られるように、いったん自己免疫が起きてしまうとそれを制御すること(病的なレベルにならないように抑えること)は臨床的には容易ではありません。したがって、健康リスクがあるアプローチでもあります。

老化細胞は悪者なのか

これに関連してひとつ注意すべきことがあります。

老化研究では、老化細胞が悪者として考えられていることがほとんどです。しかし、老化細胞は本当に悪者としてだけ機能しているのでしょうか。

老化細胞は加齢とともに誰にでも出現してくることから、もしかすると老化細胞にもなんらかの生理的な役割があるのかもしれません。

たとえば、老化細胞が作るSASP因子の一種の炎症性サイトカインは、作られる量によっては免疫の活性化に重要な役割を果たします。またSASP因子の中には傷ついた組織の修復に関わるものもあります。

もしかすると、老化細胞は常に悪い役割ばかりしているのではなくて、組織の修復や機能回復に一役買っているのかもしれません。