認知症には原因となる病気が70以上ある
拙著『早合点認知症』(サンマーク出版)では、ここまで認知症が大いに誤解されていることについて述べてきましたが、その弊害の1つが「誤った診断」です。
誤った診断とは、治療できる病気で認知症の状態になっているのに、アルツハイマー型認知症と思い込まれていたり、認知症になった原因疾患を検討しないまま「4大認知症の何かだろう」と見立てられていたりすること。
ある年、私のクリニックで認知症と診断した231例中、前医から紹介状があったケースは215例でしたが、紹介状にはただ「認知症」とのみ書かれていて、アルツハイマー型とも、レビー小体型とも、何も書かれていない人が2割を超えていました。
すでにお伝えしたように、認知症とは状態にすぎません。認知症の状態にあることを確認したら、本来は次の段階としてその原因となる病気の検討に入ります。原因となる病気とは、アルツハイマー型など70以上あるものです。しかし、単に「認知症」としか書かれていないということは、この原因となる病気が何かという検討が行われていないことを意味し、「過小診断」と言えます。
患者や家族が自己診断を誤っているケースも
誤診や過小診断では、アルツハイマー型認知症にしか適応のない抗認知症薬を服用することとなって、副作用で具合が悪くなることも起こり得ます。治療できる病気が見逃されて、後で見つかったとしても治療開始が遅れたため、認知症の状態は改善しないことも起こり得ます。
また、医師などの医療者や介護職などによる誤診や誤った見立てのほかに、患者さんご自身やご家族が「自己診断を誤っている」ことも往々にしてあります。
患者さんやご家族のなかには「きっとアルツハイマー型認知症に違いない」と自己診断をして、「アルツハイマー型認知症なら治療法はないから病院に行っても仕方がない」という勘違いをしていることもあるのです。
どちらの場合も「受診しない」というのは共通なので、治療できる病気が原因であったとしても、診断・治療が遅れてしまいます。