「老化細胞除去ワクチン」が開発された
このことから、最近、免疫の力を利用して老化細胞だけをからだから除去する試みが進められています。そのひとつが順天堂大学循環器内科の南野徹教授のグループによる老化細胞を除去するワクチンの開発です※3。
彼らは老化という現象が血管を中心に進むことから、特に血管内皮細胞で増えている分子を「治療標的候補」として探したところ、GPNMBという細胞膜表面に存在するタンパク質を見つけました。この分子は、ヒトの高齢者だけでなく、高齢マウスや動脈硬化モデルマウス(実験的に動脈硬化を起きやすくしたマウス:ヒトの動脈硬化の実験モデルとして使われる)の血管や内臓脂肪組織でも発現が増えていました。
そこで、GPNMB陽性細胞が老化細胞であると考え、それを選択的に除去する目的で抗GPNMBワクチンを作り、肥満食を与えた状態のマウスに接種しました。すると、肥満状態とともに内臓脂肪に出現するはずのGPNMBの発現が大きく減少し、同時に動脈硬化巣そう(動脈の壁が厚くなって固くなった部分)が対照群と比べて縮小し、全身的には糖代謝異常まで改善する傾向が見られました。
老化は本当に止まったのか
これらの結果は、ワクチン接種によってGPNMB陽性細胞が減って抗老化に働いたためと解釈できないこともないのですが、難しいのは、GPNMBが血管内皮細胞だけでなくマクロファージのような免疫細胞の一部にも発現していることです。
また、GPNMB分子は細胞膜表面だけでなく血液中にも可溶型分子として存在しています。となると、ワクチン接種によって本当に老化細胞だけが除去されたのか、それともマクロファージのような慢性炎症に関与する細胞も一緒に減ったために肥満食によって誘導される血管や内臓脂肪での慢性炎症が軽減されたのか、はたまた、血液中の機能不明分子である可溶型GPNMBの働きが阻害されたためなのか、区別がつきません。
また、細胞膜表面に発現するタンパク質に対する抗体を作るということは自己に対する抗体を作ることであり、免疫学的には自己免疫寛容現象が存在することから(拙著参照)、生体内で高い反応性を持つ抗体を作ることは普通は難しいはずです。