固定席を持たず、社員が自由に席を選んで働く「フリーアドレス制」。コミュニケーションの活性化やイノベーション促進などのメリットが期待されているが、必ずしも生産性の向上に直結するわけではないという。
職場のフリーアドレスのイメージ
写真=iStock.com/AzmanL
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座る場所は自由でも結局は固定の席に

上司が電話のやり取りを聞いているようで落ち着かない、同僚に声を掛けられるたびに作業が中断してしまう、在宅勤務になると身の回りに気の散る要素がいっぱいで怠けてしまう。モバイル機器が発達し、ペーパーレス化が進み、テレワークでも難なく仕事ができるようになった昨今、より働きやすい環境を探している人は多いでしょう。

従業員にどんな職場環境を提供すれば、クリエーティビティが発揮されるのか、生産性や能率が高まるのか。経営者やHR(人事)担当者もこうしたテーマに長年取り組み、試行錯誤を重ねてきました。

今から20年ほど前「フリーアドレス」というスタイルのオフィスが大いに注目されました。固定された席がなく、その日の気分でどこに座って仕事をしてもいい。修士課程で研究テーマを探していたとき、NTTドコモの先進的で自由なオフィスを訪問したときには、未来の職場を見た気持ちになったものです。

フリーアドレスは1970年代初頭、アメリカで行われた環境実験(Non-territorial office)が元になっているとされています。

マサチューセッツ工科大学のT・J・アレン教授は、ある大企業の生産技術部門のレイアウト変更に際し、個室型に区切っていた壁や衝立を取り払い、全席共有としたのです。すると、従業員がオフィス内を歩き回り、部署や部門を超えたコミュニケーションが活発になったのです。

これが仕事のパフォーマンスを高めるとの期待から、欧米でオープンなレイアウトを採り入れる企業が増えました。ただし、このときの着目点は「普段交わらない人が出会うこと」であり、固定席がないのは必須条件ではありませんでした。

一方、日本では職場スペースの効率化を図りたいとの事情から、フリースペースが導入された傾向があります。日本で初めて座席を共有する「フリーアドレス」を採用したのは87年の清水建設技術研究所でした。

営業部門の従業員は日中は外回りで、ほとんど社内にいません。にもかかわらず、一人に一台あてがわれたデスクがオフィスに整然と並んでいるのは非効率ではないか。デスクを共有すればデッドスペースを圧縮でき、有効活用できるというのがスタートだったようです。

当時のオフィスにはコピー機やファクスなど新しいOA機器が次々に導入され、スペース的にも窮屈になっていました。目新しさもあり多くの企業がフリーアドレスを採用したのも、理解できます。

その後、2000年代に入って部署を超えた人材交流や社内コラボレーションの誘発といったコンセプトも強調されるようになりましたが、その役割はコワーキングスペースへと進化し、固定席がないフリーアドレスは下火になっていきました。