家の中のあらゆる物が「凶器」になる
こうした過酷な被災生活を自力で乗り越えるには、何をどう備えればいいのか?
そう辻さんに問うと、「防災グッズを買い備えるのも大切ですが、まず在宅避難できるように『地震に強い家』をつくることを最優先しましょう。そのためには、極力物を置かないすっきりした部屋にして、家にある家具、家電、ありとあらゆる物をすべて固定することです」と答えは明快だ。
命を守るための家の断捨離。なぜなら、家具、電化製品から、インテリアグッズ、戸棚のキッチン道具、食器、書棚にある本、冷蔵庫の中の物まで、ありとあらゆる物が倒れたり落ちたり飛んだりして、命を危険にさらすからだ。地震で死亡する原因で最も多いのが、家具や物などの下敷きになる圧死だという。
辻さんが出動した被災現場では、クローゼットから雪崩のように落ちてきた洋服や本棚にあった数百冊の本、壁に飾られていたスニーカーに埋まったり、飛んできた菜箸や包丁がからだに刺さったりして、多くの方が犠牲になったという。地震では、部屋、キッチン、床に置かれたありとあらゆる物が凶器になる。
震度6弱で明暗が分かれた2つの家
「被災地に行くとよく分かりますが、災害で人はサクッと簡単に死ねないんですよ。孤独と戦いながらじわじわと痛みに苦しみ、時間をかけて死んでいくのが圧死なんです。脅すわけではありませんが、これが現実なんです。ちょっとした準備でお金もかけずに命を守ることができるんだから、やらない手はないですよ」
辻さんはこう必死に訴える。
辻さん自身、震度6弱の大阪府北部地震で被災した直後から自宅マンションで普段通りの生活を送ったという。地震による「被害」はキッチンの物がいくつか動いただけ。
一方、間取りが同じお隣さん宅では、家具が倒れ、奥さんはラックの下敷きになって負傷し入院。旦那さんは物で散乱した部屋に入ることもできず、親類宅へ避難した。散乱した物を片付けるのに約1カ月かかり、調味料や酒がこぼれてキッチンの床に穴が開いたため修繕に約60万円を費やしたという。