東京都から住民への重大な「警告」
東京都が2022年5月に発表した「東京都の新たな被害想定」(マグニチュード7.3/冬/18時)によると、首都直下地震発災直後から1日後に「家庭内備蓄をしていた携帯トイレが枯渇したり、トイレが使用できない期間が長期化した場合、在宅避難が困難化」と想定している。
これについて、辻さんは、危機感を持つ。
「東京都がここまで踏み込んで言及するのは初めてのこと。つまり、役所ができることには限界があるから、自分たちで備えて、というメッセージだと解釈しました。私たちへの警告なんです」
実際に辻さんが被災地で見てきた光景は、被災者でなければ想像すらできない過酷なものだ。メディアで報道された被災現場の様子はほんの断面でしかない。例えば、トイレ。数日経つと、トイレは閉鎖されて使えなくなる。それはなぜか?
「汚れが理由です。誰も掃除する人はいません。本来なら避難している人が当番ですることになっているんですが……。1回汚すと、次に使う人も気にせず汚して、トイレはどんどん汚くなる。水も使えない状況なので、便器内に汚物が溜まっていく」
熊本でも大阪でも石川でも、避難所のトイレは真っ先に劣悪な状態になったという。トイレが使えないために、野外でせざるを得ない。そこに雨が降ると、排尿・排便混じりの汚水が溜まり、悪臭が漂い、感染症のリスクが高まる。衛生面だけでなく精神面でのダメージも大きい。
さらに、水が使えないということはトイレが問題になるだけでない。つらいのは、身体から発せられる臭いだ。身体を洗えないために汗や汚れが蓄積した体臭は強烈になる。大勢の人の臭いが密集・密閉空間に漂う状況を想像できるだろうか。
1日3回、1人分を食べられるとは限らない
ガスも電気も使えないため、配給される食事は常温食になるというのは、よく聞く話だろう。それだけならまだしも、毎日家族の人数分の食事が配られるとは限らないというのだ。
大阪府北部地震後のある避難所では、家族3人に配給されたのは、白ご飯1杯とわかめスープ、白い小袋に包まれた中身のわからない物1人分だけだった。地震ではないが、2018年の西日本豪雨の際も、朝食におにぎり1個、昼食にメロンパン1個、夕食に小さな幕の内弁当1個が家族3人に配布された。この分量を3人で分け合うのだ。
「水や食べ物が配られるだけでもいいほうですよ。毎日3食人数分の食事というのはありません」