地震大国・日本では、南海トラフ巨大地震や首都直下地震といった大地震がいつ起きてもおかしくない。自分や家族の命を守るために、いまから備えられることはあるのか。東日本大震災や熊本地震などの被災地で救助を専門に活動する災害レスキューナースの辻直美さんに「防災の心構え」について聞いた――。(第1回/全3回)

「避難所に行けば何とかなる」は甘い

「日本全国で防災リュックを準備しているという人の割合は約10%しかないんです」

辻さんは開口一番、こう話す。

災害への危機意識が高まった東日本大震災から13年の間に、日本各地で大きな揺れが発生したにもかかわらず、備えが広がらないのはなぜなのか。

「行政が何とか対応してくれると思って安心しているのでしょうけれど、行政ができることは、避難所の設置や給水の手配といった最低限生命を維持できるレベルまでです。避難所に行けば、自分の席が用意されていて、水やお弁当が手に入って何とかなると甘く考えている人がいるかもしれません。しかし、実際の避難所では席どころか、水も食料も寝床も用意されていません。

それに、大規模災害の場合、避難所は人が殺到してキャパオーバーで入れないこともあります。自宅が損壊していなければ、自宅避難になる。どちらにしても、復興まで自力でやるしかないんです」

阪神・淡路大震災で実家が全壊したのを機に災害医療に目覚めた辻直美さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
阪神・淡路大震災で実家が全壊したのを機に災害医療に目覚めた辻直美さん。1991年から看護師として、1995年から災害レスキューナースとして活動している

夏場、真冬の被災地は想像以上に過酷

辻さんの災害レスキューナースとしての活動歴は約30年と長い。その間、被災地へ救助・救援活動に赴いたのは、2011年3月の東日本大震災、2016年4月に2度起きた熊本地震、2018年6月の大阪府北部地震など国内34カ所、海外2カ所に上る。

また、辻さん自身も阪神・淡路大震災、大阪府北部地震、そして現地入りした熊本地震と3度被災した経験を持つ。そうした被災地の過酷な状況を目の当たりにしてきたからこそ、被災することに対しての世の中の認識の甘さにしびれを切らしている。

「地震後にライフラインが途絶えることは、容易に想像できますよね。水、電気、ガスが止まる。それも1~2日ではありません。最低2~3週間は止まる。そうなると、トイレ、お風呂、冷蔵庫、エアコンと何も使えなくなる。夏場や真冬ではどうなると思いますか。

何となくは被害状況が想像できるけれど、どこかで自分は大丈夫、と根拠なく安心してしまっている。だから、他人事になるんです」