ビジネスの場で使われている敬語には、誤った表現が定着している場合がある。コピーライターの前田めぐるさんは「ビジネスの現場では『書類の“ほう”』や『利用できない“形”』など、丁寧なように見えて無意味な表現が多く使われている。すべてが誤用というわけではないが、遠まわしな表現ではなく言いたいことがはっきり伝わる言い方を選んだほうがいい」という――。(第3回)

※本稿は、前田めぐる『その敬語、盛りすぎです!』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。

クライアントに提案をするビジネスウーマン
写真=iStock.com/takasuu
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「いただく」の使い方に要注意

敬って言ったつもりの言葉が、実は失礼すぎる言葉だった。「まさか」でしょうが、よくあることです。

「ご夕食はいただきましたか」
「ご夕食はいただかれましたか」

これらはいずれも誤用です。「いただく(頂く)」は「もらう」「食べる」「飲む」、また「お風呂に入る」意の謙譲語です。

Aからもらって食べたり飲んだりする動作について、Aを高めます。例えば食事をごちそうになり「では、遠慮なくいただきます」は、もてなしてくれた相手を高めている言い方です。お風呂を勧められて「お言葉に甘えて、お先にお風呂をいただきます」も勧めてくれた相手を高めている言い方です。つまり、ごちそうになったり、お風呂に入ったりしている自分側の動作を謙遜しているわけです。

しかし「ご夕食はいただきましたか」では、敬うべき相手の「食べる」という動作を謙譲語の「いただく」で低めているため、失礼です。この状態で、さらに「……れる」と尊敬表現を加えて「ご夕食はいただかれましたか」としたところで、挽回はできません。

尊敬表現にするなら「ご夕食は召し上がりましたか」が自然。「ご夕食はお召し上がりになりましたか」は、本来二重敬語ですが、許容の範囲とされています。

「ご夕食はお召し上がりになられましたか」は盛りすぎで、誤りです。なお、次のような表現は本来は誤りですが、近年は丁重語の用法として認められます。

「晩御飯ができましたよ。ご一緒にいただきましょう」「食事の後はいつもお茶をいただきます」「旅館では到着すると、すぐにお風呂をいただきます」。3つ目は人によっては違和感があるかもしれませんね。「お風呂に入ります」のほうがまだ自然だと感じる人も少なくないでしょう。