できないことははっきり伝えるのもサービス
その商品だけが取り寄せられないのか、お店として取り寄せを行っていないのかによって言い方が変わります。
「あいにく私どもではお取り寄せを承っておりません」
「後日あらためてご案内をさしあげる形になります」も「後日あらためてご案内をさしあげます」で十分です。また、即日配達ができないとしたら「即日配達できない形になっております」でなく「即日配達はできません」「即日配達は承っておりません」「即日配達は難しいです」などいくらでも無理のない答え方はあります。できないことをはっきり分かりやすく伝えることもサービスの一環なのです。
「こちらの商品はアトリエでも完売しており、お取り寄せできない商品でございます。申し訳ございませんが、どうぞご理解のほどよろしくお願いいたします」冒頭に「恐れ入りますが」とクッション言葉を使ったり、「申し訳ございません」を最後に加えたりなどして、重い鎧を脱ぎ捨てましょう。
「マニュアル敬語」では現場の声も共有してこそ
飲食店で注文した料理が全てテーブルに運ばれたとき、よく耳にする言葉があります。
「ご注文の品はお揃いになりましたでしょうか」
こう聞かれて「はい」と笑顔で答える客の中には、もしかしたら次のように答えたい人もいるかもしれません。「はい、お揃いになっていますとも。お料理の皆様、とてもお行儀よく、素敵にドレスアップしていらっしゃいます」。なぜそんなイメージが浮かぶかというと、冒頭の言葉と似たフレーズをどこかで聞いたような気がするからです。
「ご親族の皆様、お揃いになりましたでしょうか」そう、これと似ています。「お揃いになる」は「揃う」の尊敬語。このように人を立てるのに使うならよいのですが、冒頭の言い方では、料理を立てているのです。
「ご注文の品は揃いましたでしょうか」「ご注文の品は、以上でよろしいでしょうか」などが無理のない言い方です。飲食店やコンビニでの接客用語はマニュアル敬語として問題になったことがありました。マニュアル自体が悪いわけではありません。問題があるとしたら、指導する側が「これ以外の言葉を使わないように」と強いる点です。
コンビニでアルバイトする学生に「マニュアル敬語をどう思う?」と尋ねたことがあります。「助かります。その通りに話せばいいわけだから心強い」と返ってきました。敬語の使用に十分な自信がないとき、マニュアルは実に頼りになる味方なのです。
しかし、実際の場面はマニュアル以上に多様です。限られた言葉だけで乗り切れないことも起きるはず。となれば、指導する側は、過剰な制約を課すよりも「あくまで基本」とし、スタッフが持った違和感や疑問、改善案をまず共有すべきでしょう。
そして見直しと更新です。現場の声を聞き、より時代に即した表現となるよう、頼りとされるマニュアルの精度を高めていくことが大切ですね。何事も、流されすぎは禁物です。