「レシート、ご利用されますか」は誤用
「レシート、ご利用されますか」
レジ前で店の人からこう言われた私の脳内で、「はて」と一瞬ねじれ現象が起こりました。レシートを利用するのは店側か、客側か? 「ご利用されますか」は謙譲語+尊敬語なのか、それとも過剰な尊敬語なのか? そんな思いが忙しく駆け巡りました。
早い話が誤用です。「ご利用されます」の部分は一見すると敬語のように感じるかもしれませんが、間違いです。エセ尊敬語なのです。「ご……する」という謙譲語の型に「れる」を付けても、正しい尊敬語にはなりません。「筆記具をご持参されてください」「早めにご出発されてください」「無事ご卒業されました」なども同様に間違いです。
あまりにもよく耳にするため、正しいのかと錯覚しそうになるかもしれませんが、相手の行為に「お/ご……される」は使えません。
「~する」の尊敬語化は「~なさる」に言い換えればOK
「利用する」「持参する」「出発する」「卒業する」のような「……する」型の動詞(サ変動詞)を尊敬語にする場合、簡単なのは以下の方法。覚えておくと便利です。
「レシートは(ご)利用なさいますか」
「筆記具を(ご)持参なさってください」
「早めに(ご)出発なさってください」
「無事(ご)卒業なさいました」
「ご」は付けてもかまいませんが、「落選する」のように「落選なさる」とは言えても、「ご落選なさる」とは言えない場合もあります。そのため、まとめて「ご」なしで「……なさる」で覚えておくほうが無難です。
「書類のほうをお送りします」という不思議な表現
頼んだのは書類だけなのに「書類のほう」とは? 他にも何か送ってくるのかと思わせる「……のほう」。敬語ではないのに、敬語のように考えられている節があります。
「お荷物のほう、お持ちしましょうか」
「連絡のほう、取ってみます」
「課長のほうに申し伝えます」
「ミルクティのほう、お持ちしました」
ほうほう、最近は教育が行き届いて……と感心されることはまずない「……のほう」の大盛り。「お方」という語もあるように、かつて「方」の字は貴人を直接指すことを避ける意味で使われていました。しかし、だからといって、何でも盛ればよいというものでもありません。適切に使われてこそ、言葉は「効く」のです。