※本稿は、YouTubeチャンネル「プレジデント公式チャンネル」で公開中の動画【まだ教科書にない人類のルーツ】の内容を書き起こし、再編集したものです。
「ホモ・サピエンスだけが生き残った」ではない
(前編より続く)
【星野】前編は「日本人の起源」が大きく変わりつつある話を中心にお伺いしましたが、実は「人類史」全体もこの10年ほどで大きく書き換わる可能性があるとか。篠田先生の著書にもそのあたりが詳しく書かれていますね。
【篠田】最近のゲノム研究の進展がすさまじくて、私たちの祖先がどこから来たかだけでなく、ホモ・サピエンス以外に存在した人類たちとの関係まで分かり始めています。たとえばネアンデルタール人、さらにはデニソワ人と呼ばれる謎の人類のDNAが、私たち現代人のなかに一部取り込まれていることが分かってきたんです。

【星野】従来は「ホモ・サピエンスだけが生き延び、他の人類は滅んだ」とざっくり言われてきましたが、それどころか混血していた可能性があるわけですね。
【篠田】しかも「子供ができただけでなく、その子孫が現代にまでつながっている」という事実は、ここ10年ほどで明確になりました。これはノーベル賞にも輝いた古代ゲノム研究が切り拓いた新しい世界なんです。
【星野】そもそもネアンデルタール人は、4万年ほど前にヨーロッパ付近で姿を消したとされる人類ですよね?
謎の人類「デニソワ人」の正体
【篠田】ネアンデルタール人は20万年以上もヨーロッパや西アジアに暮らしていたのですが、私たちホモ・サピエンスがアフリカを出て世界に拡散する過程で徐々に衰退し、最終的に4万年前ごろ滅んでしまったと考えられています。
ところが2010年前後、スバンテ・ペーボさん(2022年ノーベル生理学・医学賞受賞)が中心となってネアンデルタール人の全ゲノム解析を進めたところ、現生人類(ホモ・サピエンス)のゲノムに1~4%ほど、ネアンデルタール由来の配列が含まれている例があるのが判明しました。
【星野】それは当時、衝撃だったでしょうね。
【篠田】まさに世界的なニュースでした。以前は「ホモ・サピエンスが他の人類を滅ぼしただけ」と考えられていたのに、実際には両者が交わり、子孫が続いていたわけです。さらにそのネアンデルタール由来の遺伝子が、新型コロナウイルス感染症の重症化に関連していた、なんて研究報告もあって、思わぬ形で現代医学にも影響を及ぼしています。
【星野】ネアンデルタール人だけでなく、デニソワ人という不思議な人類も出てきました。これはどういう存在でしょうか。
【篠田】2008年にロシアのデニソワ洞窟で指の骨の断片が見つかり、それを解析するとネアンデルタールでもホモ・サピエンスでもない未知の人類のDNAだった。いわゆる「デニソワ人」と呼ばれるグループです。