世の中で使われている敬語のなかには、日本語として間違っているものも少なくない。コピーライターの前田めぐるさんは「『頂戴する』『させていただく』という表現には要注意だ。一見、丁寧な表現のように感じるが、日本語の使い方をひもといていくとおかしな敬語になっていることが分かる」という――。(第2回)

※本稿は、前田めぐる『その敬語、盛りすぎです!』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。

会議で説明をするビジネスウーマンの手
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内面に関する表現は敬語になりにくい

「ご希望に添えるよう頑張らせていただきます」

発注先から「見積りの額、もうちょっとだけ何とかなりませんか」と頼まれて、こう答えたことはありませんか。「させていただきます」は、許可を得て行うと見立てて使う謙譲表現。「頑張らせていただきます」と言おうものなら、相手は「弱ったな。こっちが無理強いしているみたいで。何もそこまでへりくだらなくても」と内心申し訳なく感じるでしょう。

何よりも「頑張る」という行為は、自身の強い意志によるもの。文法云々ではなく、こうした内面に関する言葉は直接の敬語にはなりにくいのです。さらに、他人の許可を得ることでもないため、「させていただく」という言葉とはなじみません。

その上で、発注先に対して丁寧に述べることで感謝の気持ちを表したいわけですね。

「ご希望に添えるよう、精一杯努力いたします」
「ご希望に添えるよう頑張ります」

こう答えれば、懸命で潔い印象を与えるでしょう。「頑張る」を言い換えたいときは、「努力する」の他にも「努める」「励む」「尽力する」「精進する」などがあります。

また、敬語とは別の話ですが、「頑張れ」という言葉は昨今なかなか他人に対して使いづらくなっていますよね。ただでさえ几帳面で頑張り屋の人が多く、過労死も問題化する日本。「そんなに頑張らなくてもいいよ」の言葉が救いになることもあるでしょう。

ただし、前半に書いたように「頑張る」は本人の意志に関わること。そうしたいから頑張っている人への「頑張らなくてもいい」は、「もっと頑張れ」と同じくらい余計なお世話にならないとも限りません。では、どう言えばいいのでしょう。「応援しています」「応援しております」「何かできることがあれば、いつでもおっしゃってください」。これなら、応援したい気持ちをさりげなく表せそうです。