――たしかに、誰しも多かれ少なかれ、無意識のうちに自分に都合よく考えてしまっているところはあるように思います。

細谷:一方で、上からの「俯瞰視点」を持つ最大の利点は、自分の特殊性を排除し、客観的に物事を捉えられること。これは「クライアントや上司が何を求めているか?」を常に考えなければいけないビジネス上のコミュニケーションには欠かせません。また、一つ上の視点から考えることで、これまでにない新たな「気づき」が得られ、知的な成長のための第一歩を踏み出せたり、思い込みや思考の癖から脱して発想を広げられたりします。

「Why型思考」で、仕事の「上位目的」を常に意識する

――メタ思考を持つことの意味は分かりましたが、実践するのは簡単ではないような……。日々の仕事にうまくメタ思考を取り入れるための、良い方法はありますか?

細谷:メタ思考の実践方法として大きく2つ紹介しましょう。まず、メタのレベルに上がるための方法論として、「なぜ?」を用いる「Why型思考」が挙げられます。例えば、あなたが上司から「交際費を部門別にまとめておいて」と指示されたとします。その際、多くの人は上司に言われるがまま作業に取りかかるのではないでしょうか。それに対し、Why型思考は「なぜそれをまとめる必要があるのか?」という、「上位目的」を考えます。

つまり、メタの視点で俯瞰して「交際費をまとめる目的は何なのか?」を考えるということです。仕事を頼む側の上司も目的を端折って「交際費をまとめる」という

手段のみを伝えてくるケースが少なくありません。そうした場合でも、言われた通りにただデータを集めるのではなく、まずは一度「上にあがって」上位目的を考えてみることが重要です。

細谷功さん
画像提供=MEETS CAREER by マイナビ転職

――すぐに作業に取り掛かったほうが仕事自体は早く終わります。そこであえて、上位目的を考える意味は何でしょうか?

細谷:最も大きな利点は、より良い解決策やアウトプットを出せることです。交際費の話でいえば、一番の目的として「経費の削減」が考えられます。また、部門別にまとめるということは、現状は部門ごとに交際費の金額にばらつきがあり、各部門の削減目標を決める検討材料としてそのデータを活用したいのではないか。そんな仮説も立てられるでしょう。もしそれが上位目的であるなら、ただ現状のデータをまとめるのではなく、「部門別にばらつく原因」を分析してみたり、原因に対する打ち手(仮説)を考えてみたりと、相手のニーズを先読みして一歩進んだ仕事ができるようになるでしょう。

また、上位目的を考えると、視野が広がって「手段を増やすこと」につながります。上司から指示された手段ありきだと、他にもっと良い手段があったとしても、そもそもそうした発想にすら至れません。与えられた選択肢をそのまま選ぶのと、10個の選択肢のなかから最も良いものを選ぶのとでは、後者のほうが良い結果を得られる可能性が高くなるのは言うまでもありません。

――とはいえ、締切まで間がなく上位目的をじっくり考える余裕がないこともあると思います。そういう場合は、上司に直接「何のためにやるのか?」を聞いてしまうのもアリでしょうか?

細谷:「なぜ?」という問いかけは相手を不快にさせることもあるため、質問の仕方に注意する必要がありますが、もちろん上司に聞いたほうが無難に仕事を進められるでしょう。ただ、問題はその上司自身が上位目的を考えていない場合です。例えば、上司に「このデータは何に使うのですか?」と聞いて「(さらに上の)部長に見せるためだよ」という答えが返ってきたとしましょう。それって上司自身が部長から依頼された仕事の上位目的を考えず、機械的に下へ作業を振っているだけですよね。そういう上司にやる意味を聞いても本当の上位目的にはたどり着けず、かえって仕事が小さくまとまってしまうでしょう。

そのため、どんな仕事であっても、できれば自分なりに仮説を立てて取り掛かることが望ましいと思います。3つくらいの仮説を立てるだけなら大して時間はかかりませんし、それによって依頼者の期待値を大きく上回れる可能性が高まるなら、やる意味はあるはずです。