今週あなたは仕事で何回「調べ物」をしましたか?
仕事においても、日常生活においても、私たちは常に何かを調べています。
そして、近年は「探す方法」も増えて、さまざまな情報にアクセスしやすくなりました。しかしその反面、得られる情報量が多く、「正しい情報かどうか」の判断は難しくなったと言えます。調べ物をしながら「これじゃない……」を繰り返した経験は誰しもあるはず。
「国会図書館にはのべ4700万点の本やその他の資料があるけれど、調べたい内容がその中に書いていないこともよくあるし、本の内容が直接検索できるようになっているのは、2024年9月時点だと体感で3割くらいなんです」。
そう語るのは、国立国会図書館のレファレンス業務に15年以上携わり、著書『調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス』がSNSなどで話題を集める小林昌樹さん。
レファレンス業務とは、図書館の利用者が必要な情報を得るために、必要な資料を検索・提供し、随時回答する業務であり、つまりその業務に携わる図書館員は、いわば“調べ物のプロ”。
そんなプロの技術があれば、不毛な調べ物をしなくても済むはず。そこで今回は、情報の海の泳ぎ方を誰よりも知る小林さんに「知りたい情報の調べ方」をお伺いしました。
調べ物は“調べる前”から始まっている。プロが実践する「あたり」のつけ方
――競合調査をはじめ、ビジネスの場にはさまざまな「調べる仕事」があります。小林さんは『調べる技術』と題した書籍を直近2冊出版されていますが、背景にはそうしたビジネスシーンにおける「調べる力」のニーズの高まりがあるのでしょうか?
小林昌樹さん(以下、小林):出版のタイミングは狙ったわけではありませんが、ビジネスの場かどうかを問わず、調べ物のニーズ自体は爆発的に増大しましたね。例えば、1990年代までの紙メディア主流の時代なら、もし疑問が生まれても「(重大事なので調べ方がかっちり決まっている)病気や財産問題などのトラブル」にまつわるものでない限り、周りの人に聞いて分からなければ調べられないことも多かったでしょう。
それが今や、検索エンジンを使えばテキストのみならず画像や音声にもアクセスできて、誰でもキーワードから簡単に文献を探せるようになった。それによって調べ物が身近になりました。
ただ、あまり知られていないのが、調べ物をする際に使うツールにも使い方があるということです。検索エンジンや調べ物の道具として使う本、データベースにも「この順番で調べたほうが効率的」とか「これはセットで使うべき」といったノウハウがあるのですが、これまであまり語られてこなかったんですよね。今回はそれを簡単にご紹介できればと思います。
――たしかに、ツールの使い方や調べ方の順番まではあまり考えたことがないですね……。
小林:難しい調べ物を依頼された場合には、先に「答えがどこに載っていそうか」考えると良いかもしれません。私はこのフェーズを「あたりをつける」と呼んでいるんですけど。
どんな資料になら答えが載っていそうか想像してみて、それが今どうやれば検索できるのかを探るんですね。意外とみなさん、どういうツールで検索しようか先に考えると思うんですけど、順序が逆なんですよ。
――自分も「どんなツールで調べるか」から考えてしまっている節があるかもしれません。
小林:この考え方を実践すると、例えば「親が経営していた小さなお店」について詳しく知りたいとき、まずはどこに情報があるか考える。すると、「専門雑誌に広告を載せていた」などの断片的な情報を思いつくだけで、昔の雑誌広告を探せるデータベースを使おうと思いつくことができる。漠然とお店のことを調べているだけだと、たどり着くのが難しいかもしれません。
簡単に答えが出る調べ物なら、いきなり検索してみてもいいんですが、難しい調べ物の場合には、答えが出る可能性を広げていく方法として、先に「あたりをつける」ようにしていますね。
――「あたりをつける」にはコツがありますか?
小林:調べる事柄の「属性」を考えるのが良いんじゃないでしょうか。属性とは、調べる事柄が存在していた時代、場所、有名か無名かといった情報。その事柄の属性を一つ一つ抽出し、掛け合わせて検索しながら、答えが載っていそうな資料や文献を探っていくんです。
例えば、「古代ローマの軍人の服装をカラーで見たい!」と思ったら、「古代+ローマ+服装+軍人」と分けてそれぞれの要素ごとにずらした方向で調べるとか。なんだか資料の内容が思い浮んできませんか?
国会図書館で調べ物の質問に答えていた時も、聞かれていることがどの知識ジャンルで探せば見つかりそうか分かれば、すっと答えが出せていて。
特に図書館の本は、そういった知識ジャンルごとに体系化されて整理されているんですよね。どの知識ジャンルで探せば答えが見つかるか、をあらかじめ経験的に知っていれば、答えの載っている本がわりあい簡単に探せます。
――ネットで難しい調べ物をする場合はどうすればいいんでしょう。
小林:Googleは全てのサイトを横断して、分からないことを自動的に調べてくれるので、皆さん逆に昔風の調べ方が分からなくなっちゃっていますよね。
Google検索が主流になる前のインターネットの世界は、専門的なデータベースがたくさんあって、それをユーザー側が選んで利用していたんです。ディレクトリ型検索エンジン(編注:テーマやトピックごとにWebサイトを人力で分類して掲載する検索エンジン。ネット上の情報を自動収集し、アルゴリズムに基づいてデータベースに登録、順位付けをするGoogle検索はロボット型検索エンジンと呼ばれる)と聞くと思い出す人もいるんじゃないかと思うのですが、そういうGoogle検索以前の調べ方を考えてみるといいかな。
インターネットでの検索もそれ以外も、まずはどこに答えが載ってそうか「あたり」をつけて、その知識ジャンルの棚を見たり、専門のデータベースを検索してみる。調べたい事柄にはいくつか複数の属性があるはずなので、その属性に合わせてデータベースを変えながら、キーワードを投げてみる。
具体的には、私が国会図書館で扱っていた人文リンク集を使ってみると良いかもしれません。知識ジャンルごとに専門のデータベースが紹介されているサイトで、とりあえずどの知識ジャンルで答えが出そうか考えて、人文リンク集で専門的なデータベースを見つけてその中で探してみることができます。
――調べるものを属性で考えるのは面白いですね。
小林:私は質問を聞くと、その事柄の属性から、どれくらいの労力で答えが出そうか感覚的に分かりますよ。
――すごい! 仕事の調べ物では、たくさんの時間と手間をかけられないことが多いので、どれくらい答えが出るのに時間がかかるか、あらかじめ把握しておくのも大切ですね。
小林:ビジネスの場で役立つかどうかは分かりませんが、調べたい事柄を時代で考えると、調べるのにかかる手間がだいたい分かります。例えば、時代を大きく「明治維新より前」「明治維新から第二次世界大戦の前」「第二次世界大戦の後」の3つに区切っちゃう。
まず、戦争中に日本の大都市はほとんど焼け野原になっているから、戦前のことって分からないことが多い。
だけど、明治維新より前――つまり江戸時代とかのことになると、また事情が違ってくる。当時の文書で使われていた、くねくねした、いわゆる「くずし字」を、現代の人はほとんど読めないので、その調べたい事柄自体、最近出た歴史関係の書籍を読んだりテレビで見たりしたことをきっかけに知ったものだったりする。そうすると、意外とちょっとした手間で分かる、と。