難しい調べ物に有効。欲しい答えに出会う可能性を広げる「ずらし」の技術
小林:調べたい事柄の属性を複数抽出しておけば、一つの属性で答えが見つからなくても、それぞれ上位語(より広い概念の言葉)や下位語(より狭い概念の言葉)、関連語にずらして探すこともできます。
――上位語や下位語にずらす、とは……?
小林:例えば「古代ローマ軍人の服装をカラーで見たい!」となった場合、私だったら国会図書館の資料を検索するNDLサーチで「服装+ローマ+図集」を探すと思います。
ただ、それで都合の良い本が見つかるとは限らない。
その場合は、抽出した属性をずらします。具体的にはローマの部分を上位語のヨーロッパにして「服装+『ヨーロッパ』+図集」とするとか。あるいは、図集に限らず普通の本なら存在するかもしれないので、「服装+古代」で検索するとか。
――小林さんの『調べる技術』を拝読して、小林さんは調べ物をする時に上手に「ずらす」ことで、調べる幅を広げられているなと感じました。競合を調べる時、プロダクトの種類だけでなく、業界だったりユーザーに提供している価値だったりと、切り口をずらしながら調べると、新たな視点が見えてくるのと似ていますね。
小林:ずらし方は色々あるかもしれませんね。私は「わらしべ長者法」と呼んでいるんですけど、探しているキーワードで情報が見つけられないときは、なるべく他のキーワードに乗り換えられないかを意識的に考えていて。
今ならChatGPTを使って「○○を違う言い方で言ってください」と聞いて、ずらす方向性を壁打ちしてもいいかもしれない。生成AIはアイデアの幅を広げてくれる相手として適任ですから。
――なかなか答えが出せない難しい調べ物は「答えが出る可能性を広げる」のが大切なんですね。
小林:「一緒に出るもの探索法」というのもあります。例えば、「江戸時代の火打ち石の絵が見たい!」と言われたとする。当然、「火打ち石」というキーワードで画像検索するわけですけど、あんまり火打ち石だけで絵にはしないですよね。それじゃあ、絵が見つからない時どうするか。
答えは、火打ち石を使う場面をいくつも考えちゃうといいんです。
時代劇を見る人ならわかるんですけど、誰かが外出するときに無事安泰を願って火打ち石を使う場面がある。それじゃあ、誰かが出かけるのを見送る人の絵はないかって探せばいいわけですね。
――「〜といえば」みたいな感じで類推して、調べるキーワードを引き出すわけですね。
小林:「ずらし」の考え方はまだまだあります。例えば「戦時中の飛行場の地図を見たい」と言われても、そんなものは機密情報なので出版されない。なので、GHQ文書にある日本攻撃計画書や、戦争直後の国土地理院地形図で代用するとか。
――情報がある場所を探す探偵みたいで楽しいですね。
小林:調べるツールの使い方自体を「ずらす」方法もあります。ベテランの司書がどんな質問にでも答えてしまうのは、各データベースや参考図書の別の使い方を“たくさん”知っているからなんですよね。ある目的で作られたデータベースを別の目的で(〜として)使うことから、私は「として法」と呼んでいるんですけど。
例えば『NDL Authorities』というリストは、本のデータを作るためのリストなんですけど、人名のデータベースとしても使える。生没年くらいならおまけで調べられるので、「○○さんは何年生まれなのか」はそれを見ればわかります。
――会社の中にあるデータベースの成り立ちや元々の使い方を把握しておくと、思わぬ調べ方を思いつくかもしれないんだな……と思いました。