仕事が進まないとき、原因はどこにあるのか。労働者メンタルヘルスの専門家である佐藤恵美さんは「産業構造の変化で職場には“名もなきフォロー”が多く生まれている。部下のモチベーションを高めて疲弊させないために、上司が身につけるべきことがある」という――。

※本稿は、佐藤恵美『職場の同僚のフォローに疲れたら読む本』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

夜のオフィスで目を抑える疲れたビジネスマン
写真=iStock.com/AnVr
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人のフォローがしんどくなる職場が生まれた理由

なぜ、人のフォローがしんどくなる職場が生まれるのでしょうか。まずは、その社会的背景から見ていきましょう。

産業構造の変化という個人のレベルではどうしようもない大きな流れが背景にあります。以前は生産性の高い産業分野に人材が集まっていましたが、2000年代に入るとこの動きに変化があり、生産性の低い分野に労働力が流れる傾向が生まれました。

その要因には、製造業からサービス業への移行や、高齢化社会の影響などがあげられます。こうした変化により、一部の分野では人手不足が叫ばれる一方で、ほかの分野では過剰な労働力が生まれ、労働者の待遇低下が起こり、パートタイマーや契約社員といった非正規従業員の割合が増加しています。

常に人手が足りない職場が、さまざまな雇用形態の人で構成されると、どうしても業務と業務のあいだ、人と人のあいだの穴を埋める必要が出てきます。

たとえば、「パートタイマーの人の仕事がうまくまわるように、正社員が各方面と調整する」といったことや、逆に「本来は正社員の仕事だけど、だれもやる人がいないので契約社員がフォローしている」という場合もあるでしょう。これが、ほかの人からはなかなか見えない「名もなきフォロー」です。

「名もなきフォロー」が積み重なると衝突を生む

名もなきフォローが増えていくと、職場の余裕がどんどんなくなっていきます。また、人手不足の職場では、先のことを考える余裕はなく、目の前の仕事に対応するので精いっぱいです。

そんな余裕のない職場でよく耳にする言葉は、次のようなものです。

「これは自分の仕事じゃない」
「この仕事は、あの人に任せられない」
「この業務について、なにも聞いていない」
「自分の業務をわたしたくない」

これ以上、業務を増やしたくないけれど、自分の業務はとられたくない――そんな職場の状況をあらわしている言葉です。

メンバーの動きが「守り」になっていて、おたがいが柔軟に業務をまわすことができず、評価されない穴埋め仕事は、だれもやりたくない状況です。

たまたま穴を埋めざるをえなくなったメンバーは、当然「なんで自分が⁉️」という理不尽な気持ちになって、職場で対立や衝突が起こりやすくなります。

また、日本の美徳の1つといわれる「おもてなし精神」も、職場の名もなきフォローを増やしている一因になっています。

おもてなし精神は、かつての豊富な労働力を前提に実現できていたものです。現在の人手不足の職場で、これまでのような質の高いサービスを提供しようとすると、どうしても無理なかたちで1人にかかる負担が増えていくことになります。

このように、個人のレベルではすぐには改善できない構造的な問題が、職場の名もなきフォローという現象を生んでいるのです。