「アナロジー思考」で“一を聞いて十を知る人”になる

――メタ思考の、もう一つの実践のための考え方は何でしょうか?

細谷:「アナロジー思考」です。アナロジーの直訳は「類推」、つまり、類似のものから推論することです。その際にポイントとなるのが「抽象化」。抽象化とは、複数の具体的な事象のなかに共通点を見つけて一般化すること。「具体」から「抽象」の世界へ行くと、一見まるで異なるように見えるものをつなげて、そこに何らかの法則を見出したり、新しい発想を生み出したりすることが可能になります。

――「具体」と「抽象」の違いについて、もう少し詳しく教えてください。

細谷:分かりやすく「ヒト」で考えてみましょう。世界には約80億の人間が存在します。それぞれを「具体的」に見ると、人によって微妙に顔や声、性格などが異なりますよね。一人ひとりを80億通りのオンリーワンの存在として扱うことが、物事を具体的に捉えるということです。

一方で、それらを共通の特徴でまとめて一般化するのが「抽象化」です。例えば、「男性」「女性」「学生」「子ども」「大人」「既婚者」「未婚者」など、さまざまな共通する特徴を抽出して、ひとまとめに扱う。さらに抽象度のレベルを上げると「人間」や「生き物」という言葉でまとめることができますよね。

――それぞれ異なる物や事象でも、抽象化することによって共通点が浮かび上がり、その共通点をもとにしたアナロジー(類推)が可能になると。ただ、それをやることでどんなメリットがあるのでしょうか?

細谷:アナロジー思考の最大のメリットは、一つの経験や学びを、他の場面にも適用できること。個別の経験を共通の特徴でグルーピングして抽象化すると、「一を聞いて十を知る」ようになります。

例えば、新しい会社に入って、「A」「B」という2つのプロジェクトを経験したのち、「C」というプロジェクトにアサインされたとします。アナロジー思考ができない人は、AとBの経験をそれぞれ別ものとして捉えるため、部署やプロジェクトが変わるたびにイチから必要なスキルを習得し、仕事の進め方などを学び直そうとします。しかし、AとBの経験を抽象化しメタの視点で捉えると、2つの経験にはたくさんの共通項があり、多くのスキルや知見が新しい仕事にも応用できると気づく。Cのプロジェクトにアサインされた段階で、すでに50点くらいは取れる状態で臨むことができるわけです。

――つまり、新しい経験を積むたびに、そこで得た具体的な学びや課題などを抽象化して共通点を見出す。そして、新しいプロジェクトで別の課題に直面した際には、過去の経験から類推して再び具体化する。そうやって具体と抽象を行き来することで、経験を最大限に活用できるわけですね。

細谷:そうですね。一見かなり遠くにあるように思える業界や会社でも、抽象的に物事を捉えるとほとんどの部分が「同じ」であることに気づくはずです。

ちなみに、こうしたアナロジー思考は、新しいアイデアを発想することにもつながります。例えば、新商品のアイデアを考える際に同業他社のヒット商品を参考にする場合がありますが、見た目や機能をそのまま「具体的に」真似るのは単なるパクリです。しかし、その商品が持つコンセプトや仕組み、構造など目に見えない部分にまでいったん抽象化したうえで、再び具体化を試みる。これはパクリではなく「抽象度の高い真似」であると言えます。回転寿司はビールの製造に使われていたベルトコンベアからヒントを得て誕生しましたが、これも抽象レベルでの真似から全く新しい価値をつくった好例でしょう。

細谷功さん
画像提供=MEETS CAREER by マイナビ転職

あと、印象に残ったエピソードを仕事上の教訓として応用できないか、と考えることもできます。例えば、飲食店で何か不快な思いをしたとして、店員さんから「次回使える500円割引のチケットを差し上げます」と会計時に言われた瞬間、コロッとお店に対する印象が良くなった、というエピソードがあったとしましょう。実は人間関係でもそういうことってないかな、とか。クレームや喧嘩から始まった関係だけど結果的に仲良くなった、みたいな「雨降って地固まる」展開は結構あるわけです。

もう一つ、「満席なのでお店の外で待ってください」と言われると、まだお店に入る前であれば(いつでもやめるという選択肢が取れるので)1時間でも平気で待てるのに、お店のイスに1回座った状態で1時間待たされたらものすごく不快になる、といったエピソードから、「どの状態(ここでは待つか待たないかを選択する権利の有無)で待ってもらうかで相手の印象は変わる」という教訓を引き出すとか。仕事でも、「スケジュールがパンパンなので近々の対応は難しいですがそれでも大丈夫ですか?」と聞かれて1週間待たされるのと、「今すぐ対応できます」で1週間待たされるのとでは、印象が全然違ってきます。