※本稿は、石沢武彰『変革する手術』(角川新書)の一部を再編集したものです。
より多くの患者を救うには新しい技術が必要だ
テクニックさえ上達すれば、手術はもっと多くの患者さんを、もっと小さな傷で治すことができるようになるのだろうか。
答えは「ノン!」である。
例えば、がんの「取り残し」をなくすには、微小な病変を見つけやすくする必要があるし、そういう残党を退治してくれるメス以外の武器があれば、劇的に手術の成績は良くなるだろう。そもそも、ごく一部の外科医しかできない超絶技巧の手術法には、日本中、世界中の患者を救う力はない。
つまり、「神の手」の器用さ、視覚、脳内の判断を「どこでも、誰でも再現する」ための技術が待たれている。
外科医が手術に全集中するように、手術支援技術の開発に情熱と能力を注ぐ研究者やエンジニアが、世の中には大勢いる。そこには、企業が新たに誕生したり、グローバルに発展したりするチャンスもあふれている。生々しい競争もあるが、社会全体のベクトルとしては、「手術でニンゲンをもっと健康にする」という壮大なプロジェクトを、メンバーが各自の得意分野で分業しているのだと僕は思っている。
だから本気で「より良い手術」を目指すなら、外科医だって「手術屋さん」ではなく、サイエンティストであるべきだ。
外科医は手術屋であると同時にサイエンティストたるべし
実験室に籠って基礎研究に打ちこむ「本職」の方々に向かって、オペ室から「僕はサイエンティストです!」と宣言するのは恥ずかしいかもしれないが、決して難しくはない。
「手術が上手くなること」だけに突っ走るのではなく、「なぜ上手くいかないのか、思ったように治らないのか」振り返ること。そして、「こういう方法や道具があれば良いかもしれない」と想像し、仮説を立て、検証すること。
何もすべてひとりでやる必要はない。オペ室のアイディアを実験室に伝える、あるいは新薬や新製品を外科医の視点で評価する、こういう「橋渡し役」だって立派な科学だ。胸を張ろう!

