がんが光るメカニズムを突き止めた
これを病理検査の結果と照合すると面白い事実が浮かび上がった。分化度が高い肝細胞がん(肝臓を構成する肝細胞から発生し、悪性化する前の性質を失っていない)は腫瘍そのものが蛍光を発していたのに対し、低分化の肝細胞がん(肝細胞の性質を失っている)や大腸がんの肝転移(そもそも肝細胞の性質を持たない)は腫瘍の周りがリング状に蛍光する傾向が明らかになったのだ。
詳しく標本写真を観察すると、肉眼では何も見えないのに、はっきりと蛍光を発している領域があった。病理医にこの部分を追加で調べてもらうと、蛍光に一致して早期のがんを認める、という診断が返ってきた。
さらに、「ICGの近赤外蛍光」を捉えることができる顕微鏡システムを試行錯誤の末に組み立て、ICGの分布――肝細胞がんの細胞内や、胆汁排泄経路、がんに圧迫された周囲の肝組織にICGが滞っている様子――をミクロでも確認した。遺伝子発現解析という方法も応用した。
その結果、よく光る肝細胞がんでは、血液からICGを内部に取り込むトランスポーター(輸送タンパク)の働きは失われていないが、それ以降の胆汁排泄機構が破綻していて、結果的にICGが内部に貯留するという機序が示された。こうしてようやく、ヒヨコの仮説が大筋で正しかったことが証明されたのだった。
世界中の肝臓外科医がオペで「新しい光」を使う時代に
となれば、多くの外科医に活用してもらいたい。僕は学会で、「肝臓がんを光らせて切除する」手術のビデオを積極的に発表した。しかし、期待に反して、聴衆からのコメントはしょっぱいものだった。
「とっても面白いね! ただ、がんが肉眼で見えなくたって、手で触ればコリっと場所が分かるのだから、わざわざ光らせる必要はないでしょ」
ところが、だ。時代が強力な追い風となる。ちょうどこの頃、肝臓の手術も開腹から内視鏡に急速な形態変化を始めたのだ。そうすると、術者はもはや自分の指先でがんを触れることができない。結果、「カメラのボタンを押すだけで、いつでも腫瘍の場所が表示される」という蛍光イメージングの価値が高まり、今では世界中の肝臓外科医に重用されるまでに成長を遂げたのである。
この一連の研究は僕の学位論文となり、2009年にCancerという英文誌に掲載された。論文の被引用数(後続の研究でどのくらい参照されたかを示す指標)は1000回に到達しようとしている。がんを光らせたほうが肝切除が早く終わるだけでなく、腫瘍の露出を予防し再発率を低くできることを示す研究も海外から相次いで報告された。
国際学会で「ICGで肝臓がんが光るんで、便利に使ってますわ。なんでか知らんけど」という外国人外科医の発表を聴くことも増えた。「キミ、知らないの?」と聞かれることもある。僕はほくそ笑む。「最初に発表したのが誰だったのか気にならないくらい普及する」様子を見るのは、開発者冥利に尽きる。



