がんを光らせられれば取り残しを防ぐことができる
ひよっこサイエンティストが絞り出したストーリーはこうだ。東大では、「幕内基準」で肝機能を評価するために、患者はもれなく手術の数日前にICG15分停滞率検査を受けていた。つまり、体重当たり0.5ミリグラムのICGが静脈注射されていた。
ICGは、肝機能が正常なら注射後15分で90%以上が血中から消失するくらい代謝が速いのだから、手術の頃には肝臓を含む全身から完全に「抜けて」いるはずだ。肝臓がんだけが光るとすれば、がん細胞や近辺の組織にICGが残存する、未知のメカニズムがあるのだろう。
僕は教授室をノックし、國土お父さん(國土典宏・現国立健康危機管理研究機構理事長)に報告した。
「事前にICG検査さえしておけば、手術中に肝臓がんを光らせることができそうなんです。そうすれば、がんの取り残しを防ぐことができますよね。画期的じゃないですか!」
教授は前のめりに画像や動画を凝視し、これはすごい発見かもしれない、と驚いた。ただ、椅子に戻り深く腰掛けると、冷静なコメントを忘れなかった。
「すごいね、すごいけど、メカニズムを解明しなければ、結局誰も実際のオペで使ってくれないよ」
「がんが光る謎」を解明すべく泊まり込み
手術の役に立たないなら意味がない。すぐに論文報告したい気持ちを今回はグッと抑えて、僕は「切除標本の断面を片っ端から蛍光カメラで観察する」という研究に着手した。3日連続で病理検査室に泊まり込み、撮影を繰り返したこともある。
病理の部屋では、大学病院のあらゆる診療科で切除された標本が、長いヒモがついたネットに収納され、巨大なホルマリンのタンクに漬けられている。タンクから外に延びたヒモの先端に、識別用の番号が記された木札がくくられているのだが、病理医でない僕には何科の標本なのか正確には分からない。何本ものヒモの中から、肝臓と思われる木札を見つけ、タンクからゆっくり引き上げるのだが……番号を間違えると、切断した手や足が浮上してくることもある。時刻はまさに丑三つ時。
40件近い手術標本の撮影が完了したので、満を持して解析に着手した。驚くべきことに、ほとんどすべての肝臓がんが光を放っていた。一方、蛍光のパターンを見てみると、「がんの内部が光っているもの」と、「がん自体は光らず、周囲の肝組織が光っているもの」に分類できた。
