――怒りを客観視できる、という点では、個人的にアンガーマネジメントにも役立つのではないかと思いました。
細谷:そうですね。「単に怒るのではなく学ぶ、着想する」という視点で生活を送れるように思います。例えば、つまらない会議とかあるじゃないですか。その時にひたすら「なぜこの会議がつまらないのか」を列挙してその解決策も考えていく。そうすると、業務効率化のアイデアも見つかるかもしれません。それに、「この会議に自分が出てる目的」をだんだん意識し始めて、「この会議に自分が出なくてもいい理由」をロジカルに説明できることで、出席しない方策を考えることもできるようになれるわけです。
――全ての経験を自分の血肉にできそうですね。細谷さんは著書のなかで、アナロジー思考とはいわば「遠くからアイデアを借りてくる」ための手法であり、より遠い世界のものをいかに抽象レベルで結びつけられるかが、想像的な発想力の根本であると述べられています。ここでいう「遠さ」とは何でしょうか?
細谷:先ほど例に挙げた「同業他社の商品」だと非常に距離が近いため、そこから斬新なアイデアを生み出そうにも限界はあります。本当に誰も気づかないようなアイデアを生み出したいなら全く別の業界、あるいはビジネスの外側にまで視野を広げてみる必要があるでしょう。子どもの遊びだったり、道端に咲いている草花だったり、あるいは歴史上の出来事だったりと、思考を飛ばす先が遠ければ遠いほど、斬新な発想に至りやすくなります。
――遠いもの同士の共通点を探るというのは「謎かけ」のプロセスに近いものを感じますね。
細谷:たしかに。ダジャレに着地するか、概念に着地するか、という違いはありますが、共通点を探る思考のプロセスは全く一緒です。
とはいえ、遠ければいいというものでもありません。例えば、「表参道で行うブライダルフェア」と「アルゼンチンのアリの行進」はかなり遠い距離にありますが、そこにユニークな共通点を見出すことは困難です。せいぜい「どちらも地球上での事象」というくらいで、それでは何のヒントにもなりません。なるべく遠くへ思考を飛ばしつつも、そこからいかに面白い共通点を見出せるか。それがアナロジー思考のポイントですね。
メタ思考の根源は、外側の世界を見たいという「好奇心」
――改めて、早い段階でメタ思考やそれに派生する「Why型思考」や「アナロジー思考」を身につけることの意義を教えてください。
細谷:単純に、メタ思考を習得すると視野が広がり、何をするにもオプションが増えるということですよね。逆に、ずっと地上にいる人は一つのやり方だけに固執してしまうというか、それしか見えていない。その間にも前者はどんどんオプションを増やしていくわけですから、1年後、3年後には大きな差が生まれています。若い頃からWhy型思考が身についている人は30歳になった時点で多くの手段を持っていますし、アナロジー思考ができる人は斬新なアイデアを、枯れることなくどんどん発想していく。それは、どんな仕事であっても大きな武器になるはずです。
あとは、仕事で欠かせない「振り返り」の精度を上げられることも大きなメリットです。振り返りって、例えば「今回は納期に間に合いませんでしたので、次回は早めに着手します」といった具体の話に終始するものではないんですよ。一度抽象化して、「当時なぜ早めに着手しなかったのか」というところまで振り返りながら、汎用性がある話に持っていかなければならない。
具体の話だけで振り返っていると、「じゃあ次回は早めに着手できるの?」と聞かれたとき、相手を納得させられる答えが出せません。なぜなら、少なくとも今回は「早めに着手しなくてもいい」と思っていたわけなので。すでに結果を知っている人と結果を知らなかった人は「別人」です。結果から遡及して振り返っては、実のある教訓を導き出せないんです。
メタ的に「上から眺める」ということはある意味、重力に逆らうことでもあります。重力に逆らう原動力になるのは、「自分が今いる場所の、外側の世界にはもっと面白いものがあるんじゃないか」という好奇心や探究心ではないでしょうか。若い人には特に、メタ思考を習得し、自らの思い込みや思考の癖から脱して広い世界を見てほしいと思います。
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取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 写真:小野奈那子 編集:はてな編集部 制作:マイナビ転職