女子会に対抗して男子会をつくった理由

本来、自分の娘ほどの年齢の女性部下をまとめあげるのは容易ではないはずだ。プロジェクトリーダーが50代の男性なら、自分の成功体験などに照らし合わせて「若い女が、なにをホザいている」と見下してしまっても無理はないと思える。穏やかで優しい雰囲気の中に、女性へのリスペクトが横溢している。

「やっぱり女性はすごい(笑)。商品開発で女性が優れているのには、3つの理由があると思います。1つめは、消費意欲が旺盛ということ。男性に比べると、どの世代の女性でも消費意欲は強力ですね。2つめは、物を買うことの情報感度が男性よりも圧倒的です。3つめは母性ですね。生み出す、育てる、というのは、女性が本来持っている強さだと思うんですね。グループにはもちろん男性もいますけど、女性マーケッターの感性を頼りにしている部分がありますねぇ」

と、山田は笑う。

スピリッツ事業部 RTD部/自身のRTD部での役割を「女子高の教頭先生のようなもの」と話す山田。「生徒たちが楽しく働ける、勉強できる環境をつくりたいんです」。女性による自由闊達でのびのびした商品づくりがヒットを生む。

だが、「女性だけで開発した女性ならではの商品」というのは案外成功しないことも多いと山田は言う。女性開発者の感性だけを立たせすぎ、いつのまにか消費者の気持ちが置き去りにされるケースがあるからだろう。両刃の剣である。やはり、常に「消費者がどう思っているか」という冷静な判断がなければうまくいかないのだ。

「スタッフへの接し方で男女の区別はしないんです。名前も全員呼び捨て。~さん、とか、~くん、と言うだけで、もう男女を分けてしまうようなところがあるでしょう。課題とか出てくるものに対する評価も全部平等。男女の使い分けは一切しません」

ただし、平等に扱っているつもりでいた山田に意外な誤算が生まれた。女性が強すぎたのである。ヒット商品を連発し、正論を吐く女性陣に、男性社員はたじたじ。肩身がどんどん狭くなり、存在感がどんどん薄くなってしまった。

そこで山田は“男子会”というものを新設した。山田を含めた5人の男子だけで酒を飲む。

「ウチは女子が強いから。彼女たちは焼き肉を食べて元気に盛り上がるんですが、男子会のほうは、和食で地味に(笑)。刺し身をつまみながら静かにエイエイオーと小さくこぶしをあげています」

会議で、市場調査で、量販店の酒売り場で、新橋の小料理屋のカウンターで、今日も山田の頭は消費者のことでいっぱいになる。

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(小倉和徳=撮影)
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