「1日10分くらいでも、いろいろなことが見えてくるんですよ。メンチカツをカゴに入れたオジサンが、迷うことなく『ストロングチューハイ』を1缶取ってレジへ向かう。メンチカツにソースをたっぷりかけてアルコール度数の強いチューハイを飲むんだな、と。それは私のようなオジサンならばすぐに感情移入できますね。
では、若い主婦が『カロリ。』を1本カゴに入れる場面。こういうところが勉強になる。主婦の気持ちをじっくり考えます。荷物が重いから1本なんだ。ということは車でなく自転車で来ているんだな。家事をこなした自分へのご褒美に飲むのかな、など。主婦は、とっておきの1本として買ってくれるのかなあと仮説を立てていくんです」
何をどのくらい買うか、だけではなく、客の買い方、表情まで、山田はジッと観察していく。
「自分の財布からお金を出す消費者は真剣です。目線がどう動いていくか。良さそうなものを選んで買うのか、買うものはあらかじめ決まっているのか。一度手に取った商品を戻すときにどんな表情をするのか。商品開発は、消費者が商品を手にレジに行く最後の瞬間のためにあるのです。こういった毎日の観察が大きな蓄積になります」
売り場で何かアイデアを思いつくと、山田はすぐにメンバーに電話をする。「あなたの商品が、今、こんな買われ方をしましたよ」と。高橋にも数多くの情報を直接伝えた。
売り場の定点観測だけではなく、山田はネットのブログなど、消費者の声を常にチェックする。そこで面白い話題があれば、すぐにメンバーに伝え、情報を共有することにしている。
こうしたリーダーの熱意が、プロジェクトを動かすのだ。
高橋が山田を尊敬するのは、「目線が社内にではなく、いつでも消費者に向いている。誰よりも消費者のことを知ろうとする、純粋なところ」だという。
「私たちのほうが消費者の年齢に近いのに、山田のほうが何でも知っていたりする(笑)。これじゃいけませんから、私たちもお客さまの気持ちを理解しようと必死になります。朝、出社すると、『面白いブログを見つけました』と山田からメールが届いていまして。『ほよろいにはまっています』というさりげない文章なんですが、この『はまっています』というのが大切なキーワードなんじゃないかと、開発のヒントになりそうなことをポッと投げてくれるんです」