ただし、「これはどう判断したらいいでしょうか」と部下からジャッジを求められる場面も当然出てくる。若い世代と心理的ギャップを感じる50代の山田にとって「こうしたほうが売れる」という確信は、自身の実感からは得られないことを強く自覚していた。
アルコール離れが進む20代の消費者。自分の娘くらいに年齢差のある女性スタッフ。一般のオジサンの感覚からすれば、何を考えているのかわからない「異星人」に対して真摯に向き合おうとはしないだろう。「最近の若者は酒の飲み方も知らない」と怒りだすのが目に見えている。しかし、山田は違った。自分の感性を全否定し、消費者を徹底的に調査研究することで、感性のギャップを克服しようとした。
RTDの商品は、ビールや発泡酒などと異なり、酒税法その他で規制されることのない自由なジャンルである。アルコール度3%、柔らかく優しいネーミング、カタカナが主流なのにひらがな、淡いデザイン。実際に手に取り、飲んでみるとジュースを飲んでいるような感覚に襲われる。こんな商品が売れると思う50代の酒飲みはいないだろう。
「『お酒とは、こうあらねばならない』なんてガチガチに考えてしまうと、とんでもない方向に行く危険性があります。いつでも消費者の気持ちに立ち返る柔軟性が必要なのです」
消費者の気持ちになることがすべて。最終的に商品を手に取るのは消費者である。その部分で、部下とリーダーが切磋琢磨することが大事だと山田は言う。
開発期間の2年間で、徹底した市場調査を行った。
「サントリーの社員はみな、お酒が好きです。お酒の研究もいっぱいしています。だから知らず知らずのうちに、『お客は正しいお酒の飲み方をしたい』などと思い込んでしまうものです。しかし消費者は、お酒にそんな興味を持っているかどうかすら怪しい。とりわけ今回は普段お酒を飲まない人のための商品をつくるので、市場調査をする際も、滅多にお酒を飲まない人がお酒を飲むときはいつなのか、どうやって飲んでいるのかを具体的に1から探ったのです」